ノエルは顔を真っ青にする。彼は寒いのが大の苦手だ。暖かいと言われる帝都の冬ですら「寒い寒い」と言っている。それ以上に寒い場所に住むことを想像したのだろう。

「もしくは、牧場主と結婚する、とか?」

 帝都から少し離れると、牧場がたくさんある。
 牛や馬、羊などを育てているのだ。
 結婚をしないのであれば、弟の邪魔をしないよう領地に引っ込み静かに暮らす。
 結婚するのであれば、牧場主との結婚が一番理想に近いと思っていた。
 ノエルは青い顔を更に青くさせて叫ぶ。

「なんで姉さんはそんなことまでして、動物と暮らしたいんだよ!?」

 泣きそうになるノエルの顔を見上げながら、シャルロッテは苦笑をもらした。
 仕方のないことだ。
 ニカーナ帝国では、この反応が普通だった。

「仕方ないじゃない。好きなんだもの! 夢なんだもの!」

 シャルロッテは悪びれもせず言った。
 幼いころからの夢なのだ。
 
「それは知ってるけど。犬や猫と一緒に暮らすなんて、さ……。あ、ごめん」
「謝らなくていいわよ。それが普通の反応だって知ってるもの」

 ニカーナ帝国の人間は動物が嫌いだ。それは、この帝国の歴史が大きく関係している。ニカーナ帝国は海に囲まれた大きな一つの島だ。かつて、ニカーナの人間は海の向こう側の大陸に住んでいた。大陸には人間以外に多くの獣人たちが暮らしている。 獣人たちは人間に比べ身体能力が高かったため、人間を奴隷として扱っていた。
 人間たちはそこから逃れ、この島で人間だけの国を作ったのだ。