ストールを忘れた日から、五日。
 別邸に向かう足取りは軽かった。
 朝食を終えると、別邸の扉を開き二階に上がる。つい、早歩きになのるは仕方ないことだ。
可愛いアッシュに会えるのだから。
 別邸の二階、一番の奥の部屋。シャルロッテはいつものように扉を三回ノックした。扉の奥から、「キャンッ」と甲高い返事が返ってくる。
 爪が扉を引っ掻く聞こえる。相当興奮しているようだ。
 そっと扉を開けると、アッシュが飛び出すようにシャルロッテに抱きついた。

「アッシュ、おはよう」

 シャルロッテはアッシュを抱き上げて、部屋の中に入る。彼は甘えるような声を上げて、シャルロッテの頬を舐めた。

(可愛い……! 幸せで死んじゃいそう……!)

 たった五日で、二人の距離は縮んだ。理由はわからない。あのストールにどういう効果があったのかはわからないが、あの日からアッシュの警戒心は解けたように思う。
 ストールを忘れた日、シャルロッテはアッシュの側を離れることができず、とうとうそのまま眠ってしまったのだ。
 目が覚めたとき、アッシュは少し距離を置きながらも、シャルロッテの側にいた。吠えることも唸ることもせず、ジッとシャルロッテを伺うような視線を向けていたのだ。

「見て、今日は果物を持って来たわ。一緒に食べましょう」

 狼獣人は基本肉を好むようだが、人間と同じように果物や野菜、穀物も食べるらしい。アッシュも子どもながら食事に肉を好む。
 それとは別にこうして果物を持って来て一緒に食べるのだ。
 シャルロッテはバスケットの蓋を開けて、野いちごを一つ口に含む。甘さが口の中に広がった。同じようにアッシュの口に近づけると、匂いを嗅いだあと口に入れる。
 初めて食べる味に驚いたのか、目を見開く。そして、気に入ったのかバスケットに鼻を突っ込んだ。

「まだたくさんあるから焦らないで」

 シャルロッテはアッシュの頭を優しく撫でる。