シャルロッテは悲鳴を上げそうになるのを、両手で必死に押さえる。声を上げたら起きてしまう。
 アッシュは眠っていた。――いつも、シャルロッテがいる場所で。アッシュが隠れる部屋の隅とは対角線にある場所だ。遠いほうが落ち着くだろうと、そこに椅子を置いて過ごしていた。
 背もたれに掛けておいたストールは床に落ちている。
 そのストールに巻きつくようにしてアッシュは眠っていた。

(可愛い……!)

 寝顔を見るのは初めてだ。
 いつもシャルロッテを警戒して、眠ることはなかった。しかし、今は安心したように眠っている。

(このストールが気に入ったのかしら?)

 なんの変哲もない紺色のストールだ。シャルロッテはアッシュが風邪を引かないようにと、ストールを上から被せてやろうとした。
 静かに、気づかれないように。しかし、ストールに手を掛けたところで、アッシュの耳がピクリと動く。
 心臓が跳ねた。
 瞼がゆっくり上がる。青い瞳がシャルロッテをとらえた。きっと、驚かせてしまう。どうやって宥めたらいいか考えるが、まったくいい案は思いつかない。
 アッシュは目を何度か瞬かせたが、怯えたりはしなかった。寝ぼけているのだろうか。シャルロッテの指先に鼻を近づけ、スンスンと匂いを嗅いだ。
そして、ペロリと舐めたのだ。

(か、可愛い……!)

 叫んでしまいそうになるのを堪える。しかし、こんなにも可愛いのだ。叫ばずにはいられない。抱き上げてもみくちゃにしたい気持ちを抑えるのに、時間が掛かった。
 小さな寝息が聞こえる。
 シャルロッテはあまりの幸福にその場を動くことができなかった。