シャルロッテは怒りをとおりこして、なんだか悲しい気分になった。狼獣人の末裔だから、人間の姿になるまでは別邸から出られないのも理解できる。
 子犬のようなアッシュの姿はとても可愛いけれど、他の人が見て同じような感想を抱くとは思えない。
 もし、カタルがもっとアッシュに寄り添ってくれたら、アッシュの世界はもう少し変ったかもしれないのに。
 シャルロッテは両手で自分の頬を叩いた。

(ママになったんだから、私がしっかりしないと!)

 残りの肉を口に押し込み、立ち上がる。

(アッシュのところに行こう!)

 シャルロッテは駆け足で別邸へと戻った。
 同じ道なのに、遠く感じる。ブレスレットを使って扉を開け二階に続く階段を登る。
 アッシュの部屋の前で、息を整える。
 アッシュは大きな声を怖がる。これは数日一緒に過ごしてわかったことだ。大きな声、大きな音。狼は音に敏感なのかもしれない。
 シャルロッテは小さく部屋の扉をノックする。
 コンコンコンと三回。

「アッシュ、私よ。シャルロッテ。入るわね」

 小さな声で語りかけたあと、ゆっくりと扉を開ける。
 いつもいる、部屋の隅に目をやった。いつもカーテンの裏に隠れて、震えているのだ。しかし、そこにアッシュの姿はなかった。

(あれ? どこ行っちゃったんだろ?)

 シャルロッテは辺りを見回す。ベッドの上にはいない。ぐるりと一周して、シャルロッテは足を止めた。

(そんなっ……!)