いつもの手順で別邸から本邸へと移動する。
別邸の二階の奥にあるアッシュの部屋を出て、長い廊下を歩く。何部屋もあるけれど、今は使われていないそうだ。
アッシュが使うのはあくまで一室。彼は生まれてからずっと、他の景色を知らない。
空があんなに青くて綺麗なことも、芝を駆け回ったら気持ちいいこともまだ何も知らないのだ。
それはなんて悲しいことだろうか。
(絶対仲良くなる! そして、人生で楽しいことを全部私が教えてあげるんだから!)
毎日あんなに怯えているのには、何か理由があるはずだ。
生まれてから三年、彼の人生はあまりいいものではなかったのかもしれない。
別邸の階段を降りると、広いホールに出る。別邸なのに、ベルテ家のホールよりも大きい。
天井から下がるシャンデリアを見上げてため息を吐いた。
(本当にどこもかしこも豪勢。……あ、ストール忘れてきちゃった)
今日は肌寒いからとメイドたちに言われ羽織った紺色のストールだ。アッシュの部屋は思いのほか温かく、置いてきてしまったのだ。
(食事が終わったら取りに行こう)
シャルロッテは別邸の扉を開けて本邸の食堂へと早歩きで向かった。
カタルとの晩餐はいつも静かだ。二人では食べきれない量の食事が並び、そこから好きなように取っていいのだが、これが少し気を遣う。サラダを兎のように頬張りながら、カタルの様子を観察した。
食事は肉料理を好むようだ。やはり、狼獣人だからだろうか。
血が滴りそうな分厚いステーキを口に運ぶ姿を見ながら、観察を続けた。
アッシュグレーの髪と切れ長の黄金の瞳。狼の姿を想像するのは容易い。
(獣人って耳とか尻尾とかあると思っていたけど、ないみたいね。……ちょっとがっかり)
幼いころ読んだ絵本には人間の姿に耳や尻尾の生えた獣人が描かれていた。しかし、カタルはどこからどう見ても人間だ。
耳や尻尾があったら、少し触らせて貰うこともできたのに。
シャルロッテは落胆をトマトと一緒に飲み込んだ。
「さっきからどうした?」
不躾な視線を不快に思ったのか、カタルが手を止めてシャルロッテを睨むように見る。鋭い眼光に初めは慣れなかったが、彼のそれは別に怒っているわけではないらしい。
「いえ。よく食べるな~って」
別邸の二階の奥にあるアッシュの部屋を出て、長い廊下を歩く。何部屋もあるけれど、今は使われていないそうだ。
アッシュが使うのはあくまで一室。彼は生まれてからずっと、他の景色を知らない。
空があんなに青くて綺麗なことも、芝を駆け回ったら気持ちいいこともまだ何も知らないのだ。
それはなんて悲しいことだろうか。
(絶対仲良くなる! そして、人生で楽しいことを全部私が教えてあげるんだから!)
毎日あんなに怯えているのには、何か理由があるはずだ。
生まれてから三年、彼の人生はあまりいいものではなかったのかもしれない。
別邸の階段を降りると、広いホールに出る。別邸なのに、ベルテ家のホールよりも大きい。
天井から下がるシャンデリアを見上げてため息を吐いた。
(本当にどこもかしこも豪勢。……あ、ストール忘れてきちゃった)
今日は肌寒いからとメイドたちに言われ羽織った紺色のストールだ。アッシュの部屋は思いのほか温かく、置いてきてしまったのだ。
(食事が終わったら取りに行こう)
シャルロッテは別邸の扉を開けて本邸の食堂へと早歩きで向かった。
カタルとの晩餐はいつも静かだ。二人では食べきれない量の食事が並び、そこから好きなように取っていいのだが、これが少し気を遣う。サラダを兎のように頬張りながら、カタルの様子を観察した。
食事は肉料理を好むようだ。やはり、狼獣人だからだろうか。
血が滴りそうな分厚いステーキを口に運ぶ姿を見ながら、観察を続けた。
アッシュグレーの髪と切れ長の黄金の瞳。狼の姿を想像するのは容易い。
(獣人って耳とか尻尾とかあると思っていたけど、ないみたいね。……ちょっとがっかり)
幼いころ読んだ絵本には人間の姿に耳や尻尾の生えた獣人が描かれていた。しかし、カタルはどこからどう見ても人間だ。
耳や尻尾があったら、少し触らせて貰うこともできたのに。
シャルロッテは落胆をトマトと一緒に飲み込んだ。
「さっきからどうした?」
不躾な視線を不快に思ったのか、カタルが手を止めてシャルロッテを睨むように見る。鋭い眼光に初めは慣れなかったが、彼のそれは別に怒っているわけではないらしい。
「いえ。よく食べるな~って」