このニカーナ帝国で獣人は忌み嫌われている。信じていた皇族が獣人だと知られたら、帝国の根底が揺るぎかねないのだ。
「獣人は獣の姿で生まれ、人間の姿を得ます。しかし、色々な事情が重なり、アッシュはまだ人間の姿を得られていません。その手助けをシャルロッテ嬢にお願いしたいと思っています」
オリバーの言葉にシャルロッテは頷いた。
(だから、私なのね)
シャルロッテが継母に選ばれた理由がずっとわからなかった。子育ての経験はない。なぜ、そんなシャルロッテに声がかかったのか、ずっとわからなかったのだ。
しかし、今ならわかる。
部屋の奥で震えながら威嚇する子犬が一番の理由だ。普通の令嬢では務まらない。これを引き受けることができるのは、『変人令嬢』と呼ばれたシャルロッテ以外にいないだろう。
「人間の姿を得られるかどうかはわかりませんが、あの子のお世話をすればいいんですよね?」
「はい。そのとおりです。ひどく人間を嫌っているため、大変かと思いますが……」
「大丈夫です! やります!」
シャルロッテは間髪入れずに言った。
驚きはある。まず、この帝国の主である皇族が獣人であるということ。しかし、今更こわがって何になろう。この帝国ができて何百年という歴史で、皇族が人間を虐げたことはない。ならば、それが答えなのだろう。
断れるわけがない。あんなに可愛い子犬と生活ができるのだ。
ほわほわとした毛。きっと触り心地は最高だ。
「本当に動物がお好きなのですね。いやぁ、狼を前に目を輝かせる令嬢なんて初めて見ました」
「だてに四年、変人でとおっていませんよ」
「こんなに『変人』が頼もしい存在だとは。もっと早くに声を掛ければ良かったですね、カタル」
オリバーがカタルに話しかけると、カタルは「そうだな」と相槌を打った。彼の表情は相変わらず堅い。
「息子のことはシャルロッテに任せた。私は仕事に戻る。息子のことは私よりもオリバーのほうが詳しいから、困ったことがあったらオリバーに聞いてくれ」
カタルはシャルロッテの返事も聞かずに、さっさと部屋を出て行ってしまった。
(自分の息子なのに……)
「カタル様はいつもあんな様子なのですか?」
「ええ、彼にも色々と事情がありまして」
オリバーは困ったように眉尻を下げる。あまり聞いてくれるな、というような雰囲気を感じ、シャルロッテはただ頷いた。
「今まではオリバー様がお世話を?」
「はい。私と私の姉の二人で世話をしていました。世話と言っても、魔法で清潔を保ったり、食事を与えたり。最低限のことしかしてあげられていません」
「そうなのですね。ずっとあの調子なのですか?」
「はい。誰かに触れられるのも怖いようです」
(じゃあ、三年間ああやって震えて生きてきたの? 可哀想……)
「私、頑張ってアッシュと仲よくなります!」
「よろしくお願いします」
オリバーは深々と頭を下げると、部屋から出て行った。
部屋にはアッシュとシャルロッテの二人きりだ。
アッシュは唸り声を上げ、ずっとシャルロッテを睨む。
シャルロッテは床に座り込むと、アッシュと視線を合わせた。
「はじめまして。私はシャルロッテ。今日からあなたのママになったの」
「獣人は獣の姿で生まれ、人間の姿を得ます。しかし、色々な事情が重なり、アッシュはまだ人間の姿を得られていません。その手助けをシャルロッテ嬢にお願いしたいと思っています」
オリバーの言葉にシャルロッテは頷いた。
(だから、私なのね)
シャルロッテが継母に選ばれた理由がずっとわからなかった。子育ての経験はない。なぜ、そんなシャルロッテに声がかかったのか、ずっとわからなかったのだ。
しかし、今ならわかる。
部屋の奥で震えながら威嚇する子犬が一番の理由だ。普通の令嬢では務まらない。これを引き受けることができるのは、『変人令嬢』と呼ばれたシャルロッテ以外にいないだろう。
「人間の姿を得られるかどうかはわかりませんが、あの子のお世話をすればいいんですよね?」
「はい。そのとおりです。ひどく人間を嫌っているため、大変かと思いますが……」
「大丈夫です! やります!」
シャルロッテは間髪入れずに言った。
驚きはある。まず、この帝国の主である皇族が獣人であるということ。しかし、今更こわがって何になろう。この帝国ができて何百年という歴史で、皇族が人間を虐げたことはない。ならば、それが答えなのだろう。
断れるわけがない。あんなに可愛い子犬と生活ができるのだ。
ほわほわとした毛。きっと触り心地は最高だ。
「本当に動物がお好きなのですね。いやぁ、狼を前に目を輝かせる令嬢なんて初めて見ました」
「だてに四年、変人でとおっていませんよ」
「こんなに『変人』が頼もしい存在だとは。もっと早くに声を掛ければ良かったですね、カタル」
オリバーがカタルに話しかけると、カタルは「そうだな」と相槌を打った。彼の表情は相変わらず堅い。
「息子のことはシャルロッテに任せた。私は仕事に戻る。息子のことは私よりもオリバーのほうが詳しいから、困ったことがあったらオリバーに聞いてくれ」
カタルはシャルロッテの返事も聞かずに、さっさと部屋を出て行ってしまった。
(自分の息子なのに……)
「カタル様はいつもあんな様子なのですか?」
「ええ、彼にも色々と事情がありまして」
オリバーは困ったように眉尻を下げる。あまり聞いてくれるな、というような雰囲気を感じ、シャルロッテはただ頷いた。
「今まではオリバー様がお世話を?」
「はい。私と私の姉の二人で世話をしていました。世話と言っても、魔法で清潔を保ったり、食事を与えたり。最低限のことしかしてあげられていません」
「そうなのですね。ずっとあの調子なのですか?」
「はい。誰かに触れられるのも怖いようです」
(じゃあ、三年間ああやって震えて生きてきたの? 可哀想……)
「私、頑張ってアッシュと仲よくなります!」
「よろしくお願いします」
オリバーは深々と頭を下げると、部屋から出て行った。
部屋にはアッシュとシャルロッテの二人きりだ。
アッシュは唸り声を上げ、ずっとシャルロッテを睨む。
シャルロッテは床に座り込むと、アッシュと視線を合わせた。
「はじめまして。私はシャルロッテ。今日からあなたのママになったの」