「君は見かけによらずせっかちななんだな」
「これから息子になる子は気になるでしょう?」

(たしか、新聞でアロンソ公爵家のスキャンダルで一面を飾っていたのは三年前よね。だから三歳か)

 三歳ってどのくらいだろうか。会話できる程度? 人見知りはどのくらい? 聞きたいことは山ほどあるが、会ったほうが早い。他人の感想よりも、自分の目で見て耳で聞いたことのほうが信頼できる。
 しかも、身内ともなると贔屓目で見てしまうところがあるだろうから。
 今にも立ち上がりたい気持ちを抑え切れない。
 その気持ちを察してか、カタルが立ち上がった。

「仕方ない。あとは歩きながら話そう」

 カタルの言葉にオリバーも頷く。
 こうして三人は広い応接室を出たのだ。

 人払いがしているのか、廊下には誰もいなかった。
 三人は広くて長い廊下並んで歩く。

「アッシュは本邸の奥にある別邸で暮らしている。こちらには来ない」
「なるほど。では、私も別邸で生活すればいいですか?」
「君の部屋は本邸と別邸に両方用意してある。好きなように過ごせばいい。ただ、使用人は別邸に入ることができないから、世話が必要なら本邸のほうがいいだろう」
「では、別邸にはアッシュ君が一人で暮らしているのですか!?」

(三歳だよね!?)

 シャルロッテが目を丸めると、オリバーが気まずそうな顔で言った。

「お会いしていただければ、状況が理解できると思いますので」
「わかりました。まずは会ってみないことにはわかりませんものね」

 オリバーの雰囲気や言葉から、すべては会えばわかるようだ。
 カタルは顔色一つ変えず、まっすぐ前を向いていた。
 それ以上、何を聞いても仕方ない気がして、シャルロッテはただ黙って歩くことに専念した。カタルもオリバーも歩くのが速い。歩幅の違いだろうか。シャルロッテはドレスの下で足の回転速度を上げるしかなかった。
 本邸の長い廊下の先に、厳かな作りの扉が見える。
 大きくて重そうな扉だ。その前でカタルとオリバーは立ち止まる。シャルロッテは、息を吐き出した。

「別邸の入り口は魔法で出入りを制限している。今後はこのブレスレットを使って入ってもらう」

 彼は内ポケットからブレスレットを取り出すとシャルロッテの腕に嵌める。金のブレスレットは装飾がなく細身だ。ドレスの着こなしに邪魔をしないように作られているのだろうか。

「これには魔法が掛けられております。ただこの扉を開けるだけの魔法ですが。ブレスレットをしたほうの手でドアを押してください」