気の弱い両親がその様子を見て眉尻を落とす。

「きっといつか、運命の相手が見つかるわ」
「そうだそうだ。それまでずっと家にいたらいい」

 シャルロッテをどうにか励まそうとする両親が痛ましい。シャルロッテは二十二歳。この国――ニカーナ帝国の貴族の結婚適齢期はちょうど二十歳を過ぎたころ。帝都に住んでいる貴族の多くは十代のときに婚約者を決めてしまうことが多い。
 二十二歳で婚約者も恋人もいないシャルロッテは少し浮いた存在だ。
 その自覚はある。
 実際、既に普通の結婚は諦めてもいた。両親や弟が「絶対いい人が見つかる」と言うからそれに付き合っているだけ。

(でも、それもそろそろ終わりにしないと!)

 このままでは国中の貴族に手紙を書いて回りそうな勢いなのだ。最近では十歳年下の少年の釣書を見せられ、叫んだこともある。いたいけな少年の未来を権力で潰してはいけない。

「お父様もお母様も安心して。ずっと、この家にお世話になるつもりはないわ!」

 シャルロッテはニカッと歯を見せて笑った。
 両親と弟は同時に目を見開く。その顔を見て、親子だなぁと内心笑ってしまう。呆けた顔がよく似ている。

「姉さん、まさか……。家を出るつもり?」
「ノエルだって、あと数年もすれば結婚するでしょ? その時、未婚の義姉が同居していたら嫌じゃない?」
「絶対大丈夫! 結婚のために姉さんを追い出すなんて絶対しない!」
「はいはい。でも、ノエルはベルテ家のためにも結婚しないとだめ。それに、ここじゃ私の夢は叶えられないし!」

 シャルロッテが「夢」と言った瞬間、家族の肩が同時にびくりと跳ねた。
 わかりやすい。そして、やっぱり親子だなと思うのだ。

「それは……そうだけど。じゃあ、どうするつもりなのさ?」
「私だって色々考えているのよ。一つ目の案は、領地の田舎に小さい屋敷を買って、ひっそり暮らす。とか」

 ベルテ伯爵領は帝都からは遠く、寒冷地にある。一年の半分が雪に覆われるため、領地の管理のほとんどは現地に住む者に任せていた。その代わり、領主であるベルテ家は帝都で多くの貴族と繋がりを作ることに注力している。
 ゆえに、ベルテ家が領地を訪れるのは、夏のほんの少しのあいだだけだ。シャルロッテも毎年視察についていくのだが、夏は避暑によく、のんびりとしたとろだった。