この広さの管理となると、人が多く執事一人でまとめるのが難しいのも頷ける。

「そうか。ここでの対応の仕方は少しずつ慣れてくれればいい。君に任せたいのは、使用人の采配ではないからな」

 カタルはシャルロッテを応接室に案内しながら言った。
 応接室の中には既に一人の男が待っていたようだ。カタルとシャルロッテを見つけると、彼はソファから立ち上がり、頭を下げる。
 右側で束ねた長い白銀の髪が尾のように揺れる。

「初めまして。私はオリバー・エレンダと申します」

 オリバーと名乗った男が眼鏡の奥で目を細めて笑う。シャルロッテは頭の中でその名前を反芻したあと、慌てて頭を下げた。
 オリバー・エレンダ。名前だけは聞いたことがある。皇帝の従兄弟であり、帝国屈指の魔法使いだ。

「初めてお目にかかります。シャルロッテ・ベルテです」

 社交場にもほとんど顔を出さない彼は、幻のように扱われる。カタルが男性らしい引き締まった体躯ならば、オリバーは中性的で細身だった。

「今日は魔法契約を結ぶために参りました。よろしくお願いします」

(そういえば、そんなこと言ってたっけ)

 お互いの条件を守るために結ぶ契約だ。普通ならば書面で残しておくだけなのだが、皇族は魔法を使って契約を結ぶ。

「ではカタルもシャルロッテ嬢もおかけになってください。まずは条件の確認からいたしましょう」

 オリバーは人のよさそうな笑みを浮かべ、カタルとシャルロッテをソファに促した。