正直、普通の結婚は諦めている。
 けれど、それを家族に言うことはできず、シャルロッテ・ベルテが二十回目のお見合いに挑んだのは、三日ほど前のこと。
 シャルロッテは丁寧な字で長々と書かれた手紙を、小さく畳みながら愛想笑いを浮かべた。
 家族の視線が集中する中、頬を掻く。

「まあ……その、つまり。だめだったみたい」

 手紙は半分ほどまで挨拶の言葉が並び、たった一行お断りのお断りの言葉を入れたあと、挨拶文へと戻っていった。
 時間をかけて書いたであろう手紙に意味はない。要約すれば「お断りします」というそれだけなのだから。
 シャルロッテは向いに座る父、母、そして隣に座る弟を順繰りと見て極めて明るく笑ってみたが、効果はない。わかりやすく肩を落とすして落胆する家族に、シャルロッテは肩を竦めた。

「姉さんのよさがわからないなんて、あいつら全員目が腐ってるんだ!」

 弟のノエルは突然立ち上がり、額に青筋を立てて苛立ちを露わにした。目をつり上げて怒るものだから、シャルロッテは苦笑してしまう。
 お見合いがうまくいかないのは、相手の目が腐っているからではない。シャルロッテが少しだけ、変わり者だからだ。

「仕方ないわ。ノエルはあんまり怒らないで。可愛い顔が台なしよ」

 シャルロッテは隣に座るノエルの頭を撫でた。シャルロッテと同じ癖のあるストロベリーブロンドの髪が揺れる。エメラルドグリーンの瞳がわずかに揺れたあと、静かに座った。
 尖った唇から、彼の気持ちが静まったわけではないことを物語っている。
 シャルロッテは姉のことを自分のことのように怒ってくれる弟を持ったことが嬉しかった。

「姉さんはちょっと趣味がわかってるだけで、美人だし、性格だっていいし……」

 ノエルは納得がいかないのか、ブツブツと隣で文句を言い続けた。