もうおわかりだろうが、風馬の言う遅い、とはつまり「あれ」のことだ。

「瑛斗と和華ちゃんももう経験したんだろ?」

「んー、まあ。」

瑛斗はいつものクールなポーカーフェイスを崩さずにいう。

「で、でも和華ちゃんだって瑛斗が初めての彼氏だって言ってたじゃん!どれくらいでしたの?」

和華ちゃんはひなのと同じすみれが丘女学院出身で、女子校育ち。

「付き合って一年のとき。」

「それでも十分遅いけどな!だって俺ら、大学生だぜ?」

風馬の言葉に自信をなくす。

俺、一ノ瀬律は大学一年生になるまで彼女がいたことも、好きな人がいたことさえもなかった。

その理由は恋なんてする暇のないくらい俺の毎日は忙しくて、充実していたから。

学校では剣道に打ち込み、家に帰ると家事、洗濯、炊事。

二つ下の双子の弟、真と優。

三つ下の双子の兄妹、玲と愛。

家族で過ごす時間が何よりも大切だった。