「……はぁ」
彼が溜め息つくと、わたしが引いていた彼の腕の力がなくなり、少し重くなった。
また俯いてしまう彼の顔を覗こうと膝を曲げた時、
「仕方ないので……雨宿りさせてもらいますよ。行けばいいんでしょういけば」
不承不承ながらに、わたしを力を預け、フラフラと立ち上がった。
──良かった……
安堵して薄く笑みが溢れるわたしに、彼は公園の後ろを指差し、見るように促す。
──ん?
素直に振り返ってみれば、ショルダーバッグが転がっていて、彼に『あなたの?』と、丁寧に指差し、口パクもまじえて伝えれば頷かれた。
「ええ、ぶん投げられてあっちまで飛んだんです。しかも水溜まりにどんぴしゃで。……っとに、最悪」
舌打ちをする彼の腕を離し、わたしはバッグを取りに行くと、すぐさま彼に渡した。
自分のものだというのに、汚い物を触るかのようにして受け取り、渋々彼は肩にバッグをかける。
「行くなら早くしましょう……俺のせいで風邪引いたとか言われたら、たまったもんじゃないんで」
どこかトゲのある言い方に、普通ならムッとするのかもしれないけど、わたしは何故だか微笑ましく感じてしまう。
ゆっくりと歩き出す彼に、わたしも買い物袋と、雨の溜まった傘を振り、彼をいれて並んで家へと向かった。