俯いていた視界に傘が入ったのか、
は?──と、小さく彼が言ったのが聞こえ、わたしは彼に近付き腕を引いた。
「ちょっ……何してっ……」
──っ!
顔を上げた彼に、一瞬にしてわたしは目を見開いてしまった。
雨に濡れ、腫れた頬に、口の傷だってあるのに……
とても綺麗で、
女性顔負けの面立ちだったから──
肩にかかるくらいの少し長めの髪に、
睫毛が長く、つり目で……色白で。
……なぜこんな綺麗な人が、こんなめにあっているのか、不思議でならない。
「何なんですっ!?貴方本当に俺のこと家まで連れてこうとしてるんですかっ?」
抵抗しながら言う彼の言葉にわたしは力強く頷いた。
そして負けじと彼の腕を引き、『立って』と口で伝える。
眉を歪めながらもわたしを見上げる彼と、彼の抵抗する力が緩んだと同時に、恐らくお互いが悟った──
彼は、わたしが話せないことを。
わたしは、わたしが話せないことに彼が気付いたということを。