(しおり)もとうとうリップクリームを持ち歩くようになったか」

 私の変化にすぐに気づいたのは中学から友達の麻美(あさみ)ちゃんだ。
 休み時間にさっとひと塗りしたのを見逃さない。
 それもレベルの高い女子力な気がする。
 
「……そろそろ、これくらいのことはと」
「それ、一ノ瀬くんも同じの使ってるよね」
「はい!?」

 一ノ瀬くんの名前が出てくるだけでびっくりしたのに、おそろいなんて聞いていない。
 私があまりにもすっとんきょうな声をあげてしまったから、麻美ちゃんもびっくりしている。

「それくらいの偶然はあるよ。何もそこまで驚かなくても」

 麻美ちゃんは笑っているけれど、偶然のようで偶然でもないのが事実だ。
 きのうの出来事をすべて彼女に吐き出して、ズバリおそろいを選んだ彼の心理とは?と訊ねたい気持ちでいっぱいだがそれもかなわない。約束をやぶるわけにはいかない。

「イケメン通り越して美人っていうか、あんなにきれいな一ノ瀬くんが選ぶリップクリームと同じの選ぶなんてセンスあるんじゃない?」
「う、うん!」

 私は作り笑いを浮かべて、頷いておくのが精一杯だ。
 まさかその一ノ瀬くんに選んでもらったことも、買ってもらったことも言えない。