帰り道はすぐに家に着いてしまう道のりを、今日は手を繋いで少しだけ遠回りした。

 別れ際に一ノ瀬くんがコートからリップクリームを取り出すから、私の唇に塗ってくれたときのことを思い出してくすぐったい気持ちになる。
 同じことを思い出してくれているのか微笑む彼が、あの日のように私の唇にリップクリームを優しく塗った。
 照れくさいのはまだ変わらないけれど、今はあの時と違って気持ちが通じて合っていると思うとときめきで胸がいっぱいになる。

 きっと一ノ瀬くんは夢を追いかけて、叶えて、未来では彼がメイクを施すきれいな女性はたくさん現れるのだろう。
 それでも、他の誰よりも私のことを好きでいてくれる気持ちが変わらないことを思わず願う。

 そんな私に何かを誓うように、一ノ瀬くんの唇が唇に触れて私はゆっくり目を閉じた——