「好きな男がいるなら、……それって俺じゃなきゃ嫌なんだけど」

 年相応か、はたまた子供みたいに一ノ瀬くんは駄々をこねるような口ぶりでそう言い放つ。
 私は意外な彼の一面を見たようでポカンとしてしまった。

「俺より仲いい男いるの?」
「え……」
「絶対、他の誰より俺は山下さんのこと好きだし、譲る気ない」

 恐らく私の顔は今、ゆでだこである。
 なんだかわからないけれど、一ノ瀬くんが存在しない私の交友関係の男の子を生みだし全力でヤキモチを妬いている。
 さらっと好きだとまで言われて、頭も心も状況に追いつかない。
 
「恋するなら、俺として」

 一ノ瀬くんとこのお店で会ってから、一ノ瀬くん以外の男の子との恋愛なんて考えたことがない。
 とめきいたことだってない。

 いつだって一ノ瀬くんのことを考えてばかりいたし、最近は本を買っても読み終えずに積んでしまいがちで、大好きだった読書もままならないくらいだ。
 
 私の心をそれだけ奪った彼は素敵すぎて、きっと私は恋愛対象にはなれないと思い込んでいたけれど、どうやら彼は彼なりに私のことを想っていてくれたらしい。