彼女へのプレゼントだろうか。
 だとすれば超プライベートすぎる。
 ここは知らないふりをしたほうがいいのだろう。

 そう思い立ち去ろうとしたものの、一ノ瀬くんがふと私の存在に気づきこちらを振り向いた。
 どうやらまじまじと彼のことを見つめすぎていたようだ。
 その証拠にバチっと音がするかのように目と目が合って、逃げられなくなってしまった。

山下(やました)さん?」

 名前を呼ばれて、一ノ瀬くんの中に自分が存在していることに驚く。
 教室で彼との接点なんて、びっくりするくらいない。
 しかも私は一度帰宅していて、制服ではなく私服姿だ。
 よくわかったなぁとさえ思うくらい、教室でも私生活でも目立つタイプでもない。

「もしかして、近所?」
「あ、うん……家がすぐ近くで」

 手にしていたコスメを棚に戻して歩み寄ってきた一ノ瀬くんは、少しだけ私に顔を近づけて小声で囁く。

「……俺をここで見たことは秘密にして欲しいんだけど」

 事情は色々聞きたい気がするけれど、もともとなんとなく秘密にしておくべきことだと察しがついていた私は、彼の言葉に何度もこくこくと頷いてイエスの意思を示す。
 すると柔らかい笑みを浮かべて「ありがとう」と言う一ノ瀬くんは、コスメコーナーのライトを背負ってる分、眩しさが増している気がした。