借りて来た本を読む時間も、楽しみ方を忘れてしまったかのようになかなかその世界に浸りきれない。
 詳しくない美容やコスメに関して、土曜日までに少しでもと自分なりに予習をしているほうが、一ノ瀬くんのそばにいるような気がして楽しいくらいだ。
 何を着て行こうかとも、約束した日からずっと迷っている。

 明らかに一ノ瀬くんに対して抱く感情も行動だって、恋以外の何者でもない気がした。

 (麻美ちゃんにも相談出来ないし……)

 ひとりベッドの上で転がりながら思い悩んでいると、メッセージアプリの着信音が鳴る。
 思い浮かべてた麻美ちゃんかと思ったけれど、通知を見て心臓が跳ねた。

『おやすみ』

 そう一言だけメッセージを送って来たのが一ノ瀬くんだったからだ。
 確かにもう寝ようとは思っていたけれど、むしろもう寝た方がいいと思っていたけれど、これはなかなか眠れそうにない気がすると思いながら『おやすみなさい』とだけ返した。

 すぐに既読がついて胸がいっぱいになったその夜は、なかなか寝つけなかったのは言うまでもない。