此処で声をかけたなら、いつもの優しい笑顔を向けてくれるんだろう。それは分かってるのに、私は声をかけられずに居る。

だって、そこに居るのは紛れもなく彼なのに、だけど、その表情は私の知らない彼だったから。

黒い半袖を着て、ダメージ加工の薄い青色のジーパンにサンダル。腰パンは変わらずで、ケータイをいじるその顔には絆創膏。何かに苛立っているのか、優しさの欠片も感じられない。

こんな星凪くん、私知らない。

ケーキみたいに優しくて甘い、私だけの王子様は、喧嘩の日々を送る不良少年だと、改めて強く思い知らされた瞬間だった。

怖い。
それしかなくて、私が彼女じゃなかったら、絶対、星凪くんとは関わらないと思う。関わりたいと思えるタイプじゃない。

星凪くんは私には気付いてなくて、ただじっとケータイを見てると思ったら、ケータイを耳に当て、何かを話してる。

その口調は苛立っていて、多分電話の相手と喧嘩をしているのだろう。

私と一緒の時はすごく優しくて、もちろん店員さんとかにも優しいのに、普段の彼を私は知らない。

「愛莉菜?どうしたの?」

立ち止まる私を、お母さんは呼ぶ。