初めての日

陽子は、初めて彼と出逢ったその瞬間から、心に小さな灯がともるのを感じていた。彼のさりげない優しさや、時折見せる真剣な眼差しが、いつの間にか陽子の中で特別な存在へと変わっていた。だが、その気持ちを口にすることには、どうしてもためらいがあった。素直に向き合いたい気持ちと、心の奥で渦巻く不安や葛藤。その狭間で揺れ動く自分を見つめるたびに、陽子はほんの少し怖くなってしまうのだった。彼に近づけば近づくほど、もし自分の気持ちを知って距離を置かれてしまったら……という思いが心を締め付ける。それでも、彼と一緒にいると、自分の不安が薄れていくようで、陽子はどうしてもその心地よさに身をゆだねてしまっていた。初めてのデート、その日の夜、二人はホテルの扉をそっと開けた。これまで言葉にせずに募らせてきた想いが、一気に溢れ出してくるようだった。まるで、恋の始まりがいきなり最終章を迎えるかのように、互いに引き寄せられていた。その夜は、二人の間にある時間や距離がまるでなかったかのように、静かに過ぎていった。何も約束されていない未来があると知りながらも、その瞬間の気持ちに正直でありたかった。好奇心が勝って、服を脱ぎ湯船に浸かると、肌に温かさがじわりと広がり、少し緊張しながらも心が落ち着いていくのを感じた。湯の中で待つ間、思わず視線を浴室の扉に向けてしまう。やがて、陽子が恥じらいを浮かべながら、バスタオルをきっちりと体に巻いて姿を現した。その表情には照れがあり、少しぎこちない動きでこちらへと歩いてくる。タオルの端を指で押さえながら、陽子の視線が落ち着かず彷徨う様子が、どこか愛おしくもあった。湯気に包まれた彼女の頬がわずかに紅く染まり、二人の間に言葉のない時間が流れていく。陽子は、初めての経験に戸惑いながらも、心を開き、静かに身を委ねた。彼女の手がかすかに震え、その中に秘められた緊張と決意が伝わってくる。お互いに言葉を交わすことなく、そっと見つめ合う。彼女が不安を感じていることも、期待に胸を膨らませていることも、すべてが表情から伝わってきた。陽子は、自分の全てを相手に預けることで、信頼の証を示したのだ。彼女の純粋な心に触れ、その思いに応えるべく、そっと手を伸ばし、静かに二人の距離が縮まっていった。しかし、唇が触れる寸前で、陽子は顔をそむけ、拒絶の意を示した。その瞬間、彼女の目に迷いや戸惑いが浮かんでいるのが見えた。自分の中で抱える感情に向き合いきれず、何かを恐れているようだった。沈黙が流れる中、彼女の繊細な心の動きが伝わり、こちらも言葉を失った。彼女が初めての経験に対して、まだ心の準備ができていないことがはっきりとわかる。そんな彼女の気持ちを尊重し、無理に進もうとする気持ちが静かに引いていくのを感じた。やがて、陽子は少し安堵したような表情を浮かべ、二人はただ隣り合いながら互いの存在を感じ取るだけの時間を過ごした。