揺れる想い

陽子とのひとときが、私にとってこんなにも特別で愛おしいものになっているとは、自分でも気づかないうちに心の中で深まっていたようだ。彼女の無邪気な仕草や笑顔、その一瞬一瞬が私にとっては宝物のようで、些細なことでも彼女の存在を感じられると、それだけで心が満たされていくのを感じる。しかし、そんな彼女と会わない時間が続くうちに、私の心もまた静かに揺れ動き始めた。会えない寂しさが募ると同時に、彼女との関係が自然と少しずつ変わりつつあることに気づかされる。今まではただ無邪気な笑顔に心惹かれていたけれど、会えない間にふとした瞬間に思い浮かべるのは、そんな笑顔だけではなく、陽子という存在そのものをもっと深く感じる自分だった。しばらく会わずに過ごす間に、彼女に対する想いはただ「会いたい」という衝動的なものから、穏やかで深いものへと変わっていった。彼女のことを考えるたび、自分が彼女の隣で何かを分かち合うことをどれほど望んでいるのか、そしてその時間がどれだけ私の心を成長させているのか、ゆっくりと理解していくようになった。スマホのベルが静寂を切り裂くように響き渡る。画面に浮かぶ「陽子」の文字。胸が少し高鳴るが、意識的に無視する。しかし、すぐに再びベルが鳴り、三度、四度と続く。まるで彼女の強い意志が伝わってくるかのようで、無視することがどれだけ難しいかを痛感する。陽子の気まぐれな一面を思い出しながらも、電話の向こうで彼女が何を伝えようとしているのか、少し気になってしまう自分がいる。その夜、無視していたLINEに既読がつき、ためらいながらも「飲みに行くか?」と送ってみた。すると、少し間を置いて「私は金持たない」と返事がくる。その一言に、なぜか彼女の本音が垣間見えた気がした。そうか、彼女は普段は素っ気ない態度を取っていても、実は少しばかり贅沢で気ままな性格を持っているのかもしれない。お金がないといいながらも、華やかなものや贅沢を好む姿が頭に浮かんでくる。それでも、その飾らない態度がどこか陽子らしくて、思わず苦笑してしまう自分がいた。美紀はふと昔のことを思い返していた。厳格な両親のもとで育ったせいか、もうこの年齢になっても門限が決められている。友人や知人から飲みに誘われるようなことは今まで一度もなく、それが彼女にとって当たり前の日常だった。そんな彼女が「飲みに行かないか?」と誘われたとき、心が少し跳ねるような感覚を覚えた。初めての経験に少し戸惑いながらも、喜びと期待が入り混じり、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じていた。