破局の兆し

デートプランなど考えていなかった。ただ、彼女が夢中でユーフォーキャッチャーを楽しむ姿を見て、つい「ほどほどにね」と注意してしまったのがいけなかったのだろう。お互いの間に微妙な空気が漂い、ぎこちないムードのまま食事を済ませた。その夜、彼女との会話は少なかった。翌日、「昨日のデート、何点くらいだった?」と尋ねると、彼女は「70点かな」と答えた。思ったより悪くはなかったらしい。それから数日後、LINEでのやり取りがだんだんと長文になり、彼女が何か不満を抱えているような気配を感じた。ふと気づくと、彼女からの連絡が途絶え、LINEもブロックされていた。さらに、彼女はいつも顔を見せていた公共の場にも来なくなった。二週間が経ち、ようやく彼女が姿を見せたとき、気まずさが漂っていたが、思い切って声をかけてみた。驚くことに、それがきっかけでブロックが解除された。結局、気まずくなったら声をかける、それが一番の方法だったのかもしれない。それから二ヶ月が経った。今日は二度目のデート。LINEでのコミュニケーションもバッチリで、待ち合わせから話が弾んだ。思いつきで友達に会っていた朝、彼女から突然「会いませんか」と誘いがあった。私は急な予定変更にもかかわらず、彼女に会いに行った。昼食の際、彼女は「あまり食べられない」と言って、チキンを少しだけ食べ、残りを私にくれた。次のデートでは焼肉に行こうと提案したが、彼女は「一人前で二人でシェアすれば十分」と言う。少食の彼女とのデートは、案外デート代がかからない。街を歩くだけのシンプルなデート。計画されたコースなど望んでいないのだと気づいた。彼女とは20歳の年齢差があるが、不思議なほど趣味や感性が似ている。音楽のジャンルは違っても、CD屋でお気に入りを探す行為そのものが共通しているし、性格もどこか似通っている。まるで、世の中で出会うべくして出会ったような気さえしてきた。しかし、デート中にふと思った。「これはデートなのか、それとも彼女の買い物に付き合っているだけなのか?」と。父親のような立場になっている自分に気づくと、色々な疑問が湧いてくる。正直に伝えるべきかと思いつつも、お金の減りが早く感じられ、一週間持つかどうか不安になった。ドライブ=お買い物、これが彼女らしいのかもしれない。嫌われる覚悟で本音を伝えることが大事だと感じ、LINEでメッセージを送った。「デートはお互いを知るためのものだ」と。そして、昨日のことを思い出す。彼女がお揃いのパスカードを二つ欲しがった時、私は少しカッとなってしまった。「なら買わなければよかった」と愚痴を零してしまったことを改めて謝りつつ、LINEで「一ヶ月のデート代は二万円」「買い物はゆっくり考えて」「デート代の範囲で買い物をすること」と伝えた。予想に反し、彼女からの返事は「はい、わかりました」とあっさりしたものだった。私の考えすぎだったのかもしれない。スマホが壊れて以降、彼女との距離が少しずつ遠ざかった気がする。あれほど進展していた関係も、もしかしたらもう戻ってこないのだろうか。還暦を過ぎて、若い彼女に惹かれる自分を振り返ると、やはり禁じられた恋のような気がしてくる。遊びの恋ではなく、真剣に好きになってしまったからこそ、もし両思いでなければ、この先に待ち受ける困難は大きい。彼女の気持ちは、私にはまだわからない。
陽子:「大丈夫。」