浅野と牧がスクラブに着替えて戻ってくると同時に
腸管破裂による腹膜炎の患者が運ばれてきた。

救急外来の看護師がストレッチャーを押して言った。

「北野博さん、72歳、О型プラスです。
 アレルギーなし、最終飲水は1時間前です」

救急看護師の情報を横耳に聞きつつ、
全員で患者をストレッチャーからベッドに移す。

事前情報の通り、患者の顔色は悪く
反応もいまいちはっきりしない様子だ。

京子が患者の服を脱がして
心電図をつけていたところで、
渚がふと気づいたように言った。


「あれ、麻酔科の先生は?」


京子もその一言で肝心の麻酔科医が
いないことに気づいた。


「薬とか準備できてるし、いると思うんだけど」

「連絡したんですけどね~
 トイレですかね?」

「今日の当直誰だっけ」

「…新谷先生です」

「あいつか~」


なんてやり取りをしている間にも
患者はお腹を押さえて苦痛な表情を見せている。


「ちょっと麻酔科室見てくるわ」


と京子が見かねて部屋を出ようとすると、
牧が台の上に用意されていたチューブ類を
ふらふらと揺らしながら言った。


「僕、やっとこうか?」