街から少し離れた高台にそびえ立つ、
東都南大学病院。
消灯時間を過ぎた深夜零時。
『総合外科部門』の看板がかかる
スタッフステーションに、
一本の電話が入った。
「はい、総合外科看護師、千秋です」
『消化器外科、浅野ですけど、
急患一件いいですか?』
「はい、情報お願いします」
『ハルトマンなんだけど、状態が悪くて…』
夜勤勤務の千秋京子は、
サラサラすぎてなかなか耳にかからない
黒髪を耳にかけてメモをとった。
さすがにもう今日は緊急手術はないだろうと
余裕をこいていたところでの急患連絡。
しかもよりによって消化器外科で、
電話の相手が浅野医師となると、
嫌な予感がじわじわと押し寄せてくる。
受話器を置いたところで、
今日の相方である後輩の島袋渚が
「誰からでした?」と顔を出した。
「浅野先生からだった」
京子はムスッとした顔で
メモした情報を渡した。
紙を受け取った渚は
あーあ、と察し顔。
「ついてないですね、千秋さん」
「最悪よ…」
そう言うのは、この二人が、
いや、この部署の全スタッフが持つ、
ある共通認識があるためだ。
ダンディで人気者な浅野とペアを組むのが、
あの、牧だということだ。
そしてその"牧先生"は…