「藤咲君!」

あたしは思いきってその背中に向かって声を出した。


その声に藤咲君は振り向いて、あたしに気がつき、こちらにやって来る。


どうしよう…っ

告白なんて、やっぱりあたし…

「春川?」

気がつけば目の前に藤咲君がいて。

その大きなきれいな目であたしを見下ろしてる。


ほら、早く言わなきゃ。

藤咲君のことが、好きです。

言いたいのに、勇気が出ないあたしは弱虫。

フラれるのが怖いんだ。

せっかくちょっとでも仲良くなれたこの関係を壊したくない。

「どうしたの?」

優しい声に、なんだか泣きそうになってくる。

ほら、藤咲君、雨に濡れちゃってるじゃん。

…っ

「これっ!良かったら使ってください!」

やっぱり告白は、できないっ!

あたしは自分が持っていた、傘を藤咲君に押し付けるとなぜか反対方向なのに勢いでやって来たバスに乗り込んでしまった。

バスはすぐに出発して、窓からはもう藤咲君の姿は見えなくなっていた。

あーあ…バカだな…

もうこんな時間…

早く帰ってご飯作って、あ、その前に買い物にいかなきゃ冷蔵庫空っぽだ。

なんで傘なんて渡しちゃったんだろう。

先月のあたしの誕生日にいっちゃんからのプレゼントとしてもらったお気に入りの傘。

晴れるようなレモンイエローの傘。