出会いは入学式の日だった。

憧れの高校に頑張って合格したあたしはかわいい制服に浮かれていた。

前日の夜は緊張してあんまり眠れなくて、次の日の朝からずっと頭がガンガンしてて。

だけど初日から休むなんてとんでもない!

入学式は絶対行かなきゃ!

そう思い、お母さんの反対を押しきって学校に行った。

すると行ったはいいけど、さらに体調は悪化してきて。

立っていられなくなり、その場でしゃがみこんでしまった。

「大丈夫?」

ふらふらする意識のなか、頭の上から心地いい声がした。

大丈夫ですと答えたかったけど、それすら言えなくて、あたしは無理矢理笑って大丈夫アピール。

「…ん、」

差し出された広い背中。

えっ…

どうすればいいのかわからなくて、戸惑ってると、腕をひかれておんぶされた。

「…すみません…」

彼の背中はなんだかとても温かくて、安心した。

そして保健室まで連れていってくれて、教室に戻ろうとしたとき、あたしはほぼ眠りながら、聞いた。

「あの…お…名前…は?」

「…藤咲…いや、いいから、ゆっくり休みなよ。」

そう言うと彼は保健室から出ていった。

ふじさき、君…

その日から一週間、風邪をこじらせて欠席したあたし。

やっとスタートした高校生活で、改めてちゃんとお礼をしようと思ってたのに。

登校してはじめて知ったその格差。

とてもじゃないけど、あたしなんかが気軽に話しかけられる存在じゃないってこと。

それからタイミングを逃しちゃって、結局あのときのお礼は言わずじまい。

だけど、入学したあの日から、藤咲君のことを考えるだけで胸がきゅーって締め付けられるような感覚におそわれるの。

あたしはこの感情をなんて呼ぶのか知ってるから。

あたしは、あの日、藤咲君に恋をしたんだ。