心が常に晴れない。
頭にモヤがかかったように、鈍い。
喪失感と悲痛で心が病みそうだった。

 艶子はしばらく家に閉じこもった。
立川とゆかりが心配して、なんとか艶子を外に出そうとしてくれたが、無理だった。
二人に気遣わせまいと思うも、力が湧かない。

 だが、そんな日も長くは続かなかった。

 なぜなら叔父夫婦が突然に家にやって来ては、艶子の部屋の扉を開けたからだ。

「お、叔父様、叔母様、どうして……」

 叔父夫婦とは、あまり関わりのなかった艶子。
父は一つ年下の叔父と仲が良好でなく、あまり親しくしていなかった。

 父は三代続くデパートを経営していたが、二人兄弟であるのに叔父はまったく関係のない会社で働いていた。
その理由はわからないが、立川からは叔父には経営能力が備わっていないと聞いたことがある。

「この家は、もうあなたのものではないの。ここにいられては困るわ」

「何を仰っているの……?ここは私の家よ」

 ここは紛れもなく艶子の家で、自分の部屋だ。
なぜそのようなことを言われなければならないのか。
驚いて言うと、叔母がドシドシと大きく足音を立てて近付いてきては、艶子の頬をバシッと叩いた。

「お嬢様っ!」

 いつの間に来ていたのか、ゆかりが驚きの声を上げる。

「口答えするなんて、さすがあの母親の娘ね」

 艶子は誰かからぶたれたことなど一度もなかった。
頭が真っ白くなり、目を丸くする。

「おい、手を出すのは止めなさい。この子の唯一の利点を傷つけては貰い手もいなくなるだろう」

 叔父が艶子を庇うものの、その目はまったく優しくない。
父と同じ血が流れているだなんて思えない鋭く憎しみの籠った目だ。