「今までありがとう」







かける言葉なんて、もうこれしかない。







「俺のほうこそ、ありがとう」







切なげに優しく微笑む彼の表情に、これまでの思い出が走馬灯のように頭を駆け巡った。







「じゃあ、私帰るね」







彼の部屋にいるだけで、思い出に香りと色がついて、押し寄せる寂しさに耐えきれなくなってしまう。







「気をつけてね」







その優しいところを好きになって、恋をして、愛していた。






でも今はもう、いつものように玄関まで見送りには来なかった。






終わりが始まったんだと、靴を履きながら冷静に感じた。