その後。

君の両親に交際の承諾を得て僕達ははれて交際を始めた。
特別に何か、変わったこと……と、いえば……君の右手の薬指にキラッと煌めく、婚約指輪(エンゲージリング)が輝いていること。
君に告白をした後……君は『指輪……()めて……』と、その細くて長い指先を僕に差し出した。
僕はセンターテーブルに置いていた箱からそーっと、指輪を取り出して、君の薬指へと指輪を()めた……。
君は何度も嬉しそうに右手を上にかざしては…うっとりと、幸福(しあわせ)そうに見つめては僕に向かって微笑んでくれた。
それと、もう一つ。
君に僕のアパートの合鍵を渡した。
僕のアパートの合鍵を受け取って以来……君は僕が大学やアルバイトから帰る前にアパートへとやってきては夕食を作ってくれて、僕の帰りを待っていてくれた。
この場所に引っ越してくる前は母親か、妹……誰かしらが家にいてくれて『ただいま』といえば『おかえりなさい』と、返ってくる生活を送っていたから
『ただいま』と言っても言葉が返ってこないどころか、出迎えてくれる人が1人もいない明かり1つ灯っていない真っ暗な部屋に帰ってくるのが、へとへとになってようやく家に帰ってきた……と、いう安心感よりも淋しさが勝り、時に虚しくなることさえあった……。
それが君にアパートの合鍵を渡したことで、実家にいたように……『ただいま』と言えば『おかえりなさい』と言葉が返ってくることの有り難さをひしひしと感じた。
君と2人っきりで過ごす時間はとても楽しく、心が満たされ、君のことがより一層愛おしくてたまらなかった。
何よりもかけがえのない時間だった。
少しずつ、少しずつ長くなってゆく2人っきりの時間と共に君の私物も1つ、2つと増えていった。
気がつけば、君と僕は半同棲のような生活を送るようになっていたーー……。