それから幾日かが、過ぎ去っていった……。
けれど……僕の決心は揺らぐことはなくてその時を今か、今かとタイミングを見計らっていたんだ。

そんなある日。

大学の講義が三限で終わり、アルバイトも休みという平日。
より長く逢えるから……と、君は僕の部屋に遊びに来ていた。
僕は君の隣に座り、君の大好きなココアを二人で飲みながらのんびりと他愛のない話をしていた。
不意に途切れた会話が途切れ、僕は『今だ…』と、思った。
ズボンのポケットに忍ばせていた小さな白い箱を徐ろに取り出し、箱の蓋を開けて君の前へと差し出す。
キラッ……。
中央に上品かつやや大きめなダイヤが埋め込まれ、その両端に三つずつ、中央に埋め込まれたダイヤよりも小さめなダイヤが側にあしらわれたシルバーの婚約指輪(エンゲージリング)が光を放った。
「……結婚を前提に付き合って下さいっ……」
僕は真剣な瞳で君をじっ……と、見つめて、そう……告げた。
君は瞳を大きく見開き、僕を見つめる……。
「……ちゃんと……告白……君に気持ち伝えてなかったから……。けじめ……とも、言うのかな……きちんと伝えないと……って、僕なりに思って……」
ドキドキッ……‼
心臓が口から飛び出してしまうんじゃないか……と、思うくらい……僕の心臓は早く、大きく打ち鳴らしてゆく……。
僕は緊張のあまり、上手く言葉が喋れなくて……たじたじになってしまった……。
そんな自分の姿に……我ながらしっかりしろよ! 情けない……と、頭の片隅で思った……。
君は無言のまま……。
チクタク……と、センターテーブルの上に置いてある目覚まし時計の秒針が時間(とき)を刻んでゆく音がシーンと静まり返った部屋に響き渡る……。
一秒、一秒毎に秒針の針が時間(とき)を刻んでゆく度に……僕の心の中に不安が募っていった……。
……迷惑……だった、かな……?
それとも……あまりにも……いきなり過ぎた……?
そもそも君は僕に対して、恋愛(そういう)感情すら抱いていなかった……?
僕の心の中に募った不安はゆっくりとマイナス感情を抱かせるきっかけとなり、次から次へとマイナスな感情が頭の中を過り始めた……。
この場合、君の返答を待つべきなのだろうけど……今の僕にはこの重苦しい雰囲気に耐えられる程の心の余裕がなくて……つい、言葉を口にしてしまった……。
「あ、の……君が……恋愛感情がない(そんなつもりじゃない)のなら……ハッキリと、断わってくれて構わないから……」
ボロッ……。
「えっ……」
僕が言葉を言い終わるのとほぼ同時に君の瞳から一雫の涙が流れ落ちた……。
僕は内心『やってしまった……』と、思い、急いで言葉を紡いだ。
「ご、ごめんっ! 迷惑だったよね⁉ 本当に……ごめっ……」
言葉を言い終わらぬ内に君が言葉を重ねた……。
「迷惑なんかじゃない……」
「ーーっ……」
「……し、い……」
「えっ……」
「……うれ、しい……。すごく……嬉しいっ……」
君はポロポロ……と、大粒の涙を零しながら……ゆっくりと言葉を紡いでいった……。
「でも……私……何も、出来ない……。私の方が……迷惑、ばっかり……かけちゃう…。こんな……私で、いいの……?」
「こんな私でいいの……って、言わないで」
一旦、婚約指輪(エンゲージリング)が収められた白い箱をサイドテーブルに置いて、僕は壊れ物に触れるかのように……そっと、君を抱き寄せた……。
「いろんなこと出来るようになってるじゃないか。出来ないから……って、気にすることは何もないよ。出来ないことは……少しずつ……出来るようになればいいし、出来ないから……って、落ち込むこともないよ。それに僕は君に対して、一度だって……迷惑だなんて思ったこともないよ」
「……っ……」
「僕の傍にこれからもずっと……いてほしい……。僕は……君と二人で一緒にこれから先の未来も生きていきたいんだ……」
「ーーっ……」
「好きだよ、愛してる……」
コクッ……。
僕の胸の中で君が小さく頷いた。
「……私も……」
君は今にも消え入りそうな声で呟いた……。
僕は君を抱きしめている腕に力を込めたーー……。