……な、んだ、これ……。
僕がバイトをしているこの場所は大きな主要道路を中心として両側に歩道があり、オフィスビルや飲食店等大小様々な建物が立ち並び、人々の往来も多く、賑わい、活気に溢れていた。
それが今……目の前に広がる光景は僕の知っているマチとはあまりにも違って……いや、違いすぎていて愕然とする……。
道路の場所によっては地面に敷いていたアスファルトが剥がれて、地面が隆起したり、陥没していた。
それによって道路と歩道の間に綺麗に並べられていた縁石はぐちゃぐちゃになり、車止めのポールが傾いている箇所もあった。
道路が陥没した箇所には土とアスファルト、縁石や車止めのポールがごちゃ混ぜになって地中に埋もれていた……。
サァーー……。
ある場所からはひび割れたアスファルトの地面から勢いよく水が溢れ出し、辺り一面に大きな水たまりを作り出した挙げ句に低い場所へとそれは川のように絶え間なく水が流れ続けていた……。
地面に埋められた水道管が破損したせいで水が溢れ出していると、いうことは一目瞭然だった……。
周囲の建物は何一つ破損のない建物は指で数えられる程……。
ほとんどの建物が何かしらの損傷を負っていた……。
所々亀裂が入っているが、何とか建物としての原型をとどめている建物|《もの》……。
一部が崩れているが辛うじて形を残している建物……。
建物全体が傾き、いつ崩れてもおかしくない建物……。
完全に瓦礫とか化した建物……。
そういう建物ばかりでその辺りには無数のコンクリート片やガラスの破片が散らばり、道路の一部が瓦礫で塞がれている場所や建物に掲げられていたであろう看板が地面に突き刺さったり、倒れたり、辛うじて落下は免れているもののいつ落下してもおかしくない状態な看板まであった……。
場所によっては地面が隆起したせいで街灯が傾き、だらーんと垂れ下がった電線や無残にちぎれた電線もあった……。
そのちぎれた電線の先からパチッと小さな火花が散った……。
……あ、れは……。
目を凝らして一点を見つめると……火の手があがっているのか……遠くの方で微かに黒煙が見えて時折、赤い猛炎もちらついていた……。
……大火事になるかもしれない……。
天へと向かっていく煙の量がほんの数秒前に目で見たよりも増えているような気がした……。
いや、もしかしたら……すでにその周辺は炎が大きくなり始め、辺り一帯を火の海と化そうとしているのかもしれない……。
建物の築年数や耐震強度の補強具合、それに地盤の強さ、アスファルトの劣化具合等、様々な要因が関係しているのだろうけど……それを含めてのこの光景だとしても……これはあまりにも酷すぎるのではないだろうか……。
僕の知っているマチは……すっかり変わり果てていた……。
埃っぽい空気と微かに鼻腔に届いた血の香り……。
受け入れがたい惨状を目の当たりにして僕はその場に立ち尽くしたまま……
う、そだ……。
……夢だ、これは夢なんだ……と、耳を塞ぎ、目を背けたくなってしまった……。
「……た、す……けて……」
「大丈夫かっ! しっかりしろっ!!」
「おいっ!!」
「痛い、痛い……」
「……っ……」
瓦礫と化した建物の側のそこかしこから聞こえる悲痛な叫び……。
それは……救出を乞う声や苦悶の唸り声だった……。
その声が僕に目の前に広がる惨状は現実なのだと訴え、僕以外の周りの人間に人命救助しなければ……と、いう思いに駆り立てた。
その人達は決して無傷な人間ばかりではなかったし、皆が皆人命救助を行っているわけでもなかった……。
いや、行える状態ではなかった人間もいると言った方が正しい……。
自らも怪我を負っているにも関わらず、率先して救助に力を貸す人間。
その場に泣き崩れている人間。
重症を負い、一人ではその場から動くことができない人間やピクリとも動かない人間……。
どこを見ているのか……焦点の合わない瞳でその場に佇んでいる人間等が僕の視界の見える範囲に溢れていたんだ……。
「誰かーっ‼」
さらに鋭く、悲鳴にも似た見知らぬ女性の声に僕はハッと我に返ると同時にある1人の女性の笑顔が脳裏を過った……。
……き、みは……?
君は……無事なのだろうか……。
家族や親戚、友人達の無事を考えるよりも……僕の頭の中に真っ先に浮かんだのは……君、だった。
僕はすぐさまズボンのポケットに入れた携帯電話を取り出し、君の携帯電話へと電話をかけようと操作する。
……が、手が震えた……。
小刻みに指先が震えて、うまく操作ができない……。
ど、こだ……?
確か、ここらへんに……。
ずらっと並んだ連絡先に見つめ、スクロールして必死に君の名前を探すけれど……こういう時に限って見つからない……。
どうして……。
なんで……。
早く、早くっ……!
一刻も早く君に連絡を取りたいのに……連絡が見つからない……と、いう焦りがますます僕の気持ちを不安にさせて急かす……。
何度も何度も上下にスクロールを繰り返して、君の連絡先を探した……。
ーーあった……!
やっとの思いで見つけた君の連絡先に電話をかけた。
どうか……
どうか、無事でいて……!!
電話がかかる音を……
君の声を聞き逃さないように……
僕は携帯電話を耳に押しつけ、強く目を瞑り、祈りながら君に電話が繋がるのを待った。
ドクン、ドクン……。
いつにも増して僕の心臓は大きく、鼓動を打ち鳴らした。
えっ……。
数秒後、耳に届いたのは……ツーツーと、いう電子音……。
それは電話が繋がっていないことを示す音……。
つ、ながらない……?
どうして?
なんで!?
君に連絡が取れない……。
たった、それだけのことで? と、言われそうだけど……この時の僕はこの事実だけで冷静な判断ができなくなっていたんだ……。
なんで、かからない?
誰かと電話をしてるのか?
誰に?
誰だよ!?
早く、切れ!
切ってくれ!!
これじゃ、電話が繋がらないじゃないか!
君の無事を誰よりも……一刻も早く確かめたいんだよっ!!
パニック状態の脳内で狂ったように携帯電話の画面に表示された通信ボタンを何度も、何度もタップした。
けれど……数秒後に聞こえてくるのは、冷たく機械的な電子音のみで、電話が君に繋がることはなかった……。
……どうして……。
冷静になれば、その原因はなんなのか……すぐに分かることだ……。
恐らく原因は……これほどまでに甚大な被害をもたらした天災によるものだろう。
通信の要である基地局あるいは基地局と基地局の間にある中継点の交換局、もしくは光ケーブル等に何かしらの影響が起こっていてもおかしくない状況だ。
しかも、僕と同じように誰もがいち早く大切な人達に連絡を取ろうと電話をかけていたら……回線が混み合って電話がかかりにくくなるのは当然のこと……。
けれど、今の僕は冷静さを欠いていたこともあって、どうして何度電話をかけても繋がらないのか、繋がる気配すらないのか……と、いうことを分からずにいた……。
どうしよう……。
どうしたら……いい?
何度、かけ直しても……電話が繋がらず、一向に君との連絡が取れないことへの焦りと不安がますます僕の冷静さを奪い、マイナス思考へと誘っていき……。
……もしかしたら……。
君の死。
最悪なことを思い、指が止まった……。
それはほんの一瞬のことだった……。
君の名前が表示された携帯電話の画面が、ふっ…と、消えそうになる。
そんなはず、ないっ…!!
急いで画面をタップし、僕は勢いよく頭を振り、不安にかられる気持ちやマイナス思考を排除しようと心がけた。
そんなはずがあるわけない……。
大丈夫、大丈夫だ……。
生きてる。
君は生きてる。
絶対に……。
君の無事を切に祈りつつ、電話をかけ直しながら……
僕は今、何をすべきなのか、何ができるのだろか……と、必死に考えたーー……。
僕がバイトをしているこの場所は大きな主要道路を中心として両側に歩道があり、オフィスビルや飲食店等大小様々な建物が立ち並び、人々の往来も多く、賑わい、活気に溢れていた。
それが今……目の前に広がる光景は僕の知っているマチとはあまりにも違って……いや、違いすぎていて愕然とする……。
道路の場所によっては地面に敷いていたアスファルトが剥がれて、地面が隆起したり、陥没していた。
それによって道路と歩道の間に綺麗に並べられていた縁石はぐちゃぐちゃになり、車止めのポールが傾いている箇所もあった。
道路が陥没した箇所には土とアスファルト、縁石や車止めのポールがごちゃ混ぜになって地中に埋もれていた……。
サァーー……。
ある場所からはひび割れたアスファルトの地面から勢いよく水が溢れ出し、辺り一面に大きな水たまりを作り出した挙げ句に低い場所へとそれは川のように絶え間なく水が流れ続けていた……。
地面に埋められた水道管が破損したせいで水が溢れ出していると、いうことは一目瞭然だった……。
周囲の建物は何一つ破損のない建物は指で数えられる程……。
ほとんどの建物が何かしらの損傷を負っていた……。
所々亀裂が入っているが、何とか建物としての原型をとどめている建物|《もの》……。
一部が崩れているが辛うじて形を残している建物……。
建物全体が傾き、いつ崩れてもおかしくない建物……。
完全に瓦礫とか化した建物……。
そういう建物ばかりでその辺りには無数のコンクリート片やガラスの破片が散らばり、道路の一部が瓦礫で塞がれている場所や建物に掲げられていたであろう看板が地面に突き刺さったり、倒れたり、辛うじて落下は免れているもののいつ落下してもおかしくない状態な看板まであった……。
場所によっては地面が隆起したせいで街灯が傾き、だらーんと垂れ下がった電線や無残にちぎれた電線もあった……。
そのちぎれた電線の先からパチッと小さな火花が散った……。
……あ、れは……。
目を凝らして一点を見つめると……火の手があがっているのか……遠くの方で微かに黒煙が見えて時折、赤い猛炎もちらついていた……。
……大火事になるかもしれない……。
天へと向かっていく煙の量がほんの数秒前に目で見たよりも増えているような気がした……。
いや、もしかしたら……すでにその周辺は炎が大きくなり始め、辺り一帯を火の海と化そうとしているのかもしれない……。
建物の築年数や耐震強度の補強具合、それに地盤の強さ、アスファルトの劣化具合等、様々な要因が関係しているのだろうけど……それを含めてのこの光景だとしても……これはあまりにも酷すぎるのではないだろうか……。
僕の知っているマチは……すっかり変わり果てていた……。
埃っぽい空気と微かに鼻腔に届いた血の香り……。
受け入れがたい惨状を目の当たりにして僕はその場に立ち尽くしたまま……
う、そだ……。
……夢だ、これは夢なんだ……と、耳を塞ぎ、目を背けたくなってしまった……。
「……た、す……けて……」
「大丈夫かっ! しっかりしろっ!!」
「おいっ!!」
「痛い、痛い……」
「……っ……」
瓦礫と化した建物の側のそこかしこから聞こえる悲痛な叫び……。
それは……救出を乞う声や苦悶の唸り声だった……。
その声が僕に目の前に広がる惨状は現実なのだと訴え、僕以外の周りの人間に人命救助しなければ……と、いう思いに駆り立てた。
その人達は決して無傷な人間ばかりではなかったし、皆が皆人命救助を行っているわけでもなかった……。
いや、行える状態ではなかった人間もいると言った方が正しい……。
自らも怪我を負っているにも関わらず、率先して救助に力を貸す人間。
その場に泣き崩れている人間。
重症を負い、一人ではその場から動くことができない人間やピクリとも動かない人間……。
どこを見ているのか……焦点の合わない瞳でその場に佇んでいる人間等が僕の視界の見える範囲に溢れていたんだ……。
「誰かーっ‼」
さらに鋭く、悲鳴にも似た見知らぬ女性の声に僕はハッと我に返ると同時にある1人の女性の笑顔が脳裏を過った……。
……き、みは……?
君は……無事なのだろうか……。
家族や親戚、友人達の無事を考えるよりも……僕の頭の中に真っ先に浮かんだのは……君、だった。
僕はすぐさまズボンのポケットに入れた携帯電話を取り出し、君の携帯電話へと電話をかけようと操作する。
……が、手が震えた……。
小刻みに指先が震えて、うまく操作ができない……。
ど、こだ……?
確か、ここらへんに……。
ずらっと並んだ連絡先に見つめ、スクロールして必死に君の名前を探すけれど……こういう時に限って見つからない……。
どうして……。
なんで……。
早く、早くっ……!
一刻も早く君に連絡を取りたいのに……連絡が見つからない……と、いう焦りがますます僕の気持ちを不安にさせて急かす……。
何度も何度も上下にスクロールを繰り返して、君の連絡先を探した……。
ーーあった……!
やっとの思いで見つけた君の連絡先に電話をかけた。
どうか……
どうか、無事でいて……!!
電話がかかる音を……
君の声を聞き逃さないように……
僕は携帯電話を耳に押しつけ、強く目を瞑り、祈りながら君に電話が繋がるのを待った。
ドクン、ドクン……。
いつにも増して僕の心臓は大きく、鼓動を打ち鳴らした。
えっ……。
数秒後、耳に届いたのは……ツーツーと、いう電子音……。
それは電話が繋がっていないことを示す音……。
つ、ながらない……?
どうして?
なんで!?
君に連絡が取れない……。
たった、それだけのことで? と、言われそうだけど……この時の僕はこの事実だけで冷静な判断ができなくなっていたんだ……。
なんで、かからない?
誰かと電話をしてるのか?
誰に?
誰だよ!?
早く、切れ!
切ってくれ!!
これじゃ、電話が繋がらないじゃないか!
君の無事を誰よりも……一刻も早く確かめたいんだよっ!!
パニック状態の脳内で狂ったように携帯電話の画面に表示された通信ボタンを何度も、何度もタップした。
けれど……数秒後に聞こえてくるのは、冷たく機械的な電子音のみで、電話が君に繋がることはなかった……。
……どうして……。
冷静になれば、その原因はなんなのか……すぐに分かることだ……。
恐らく原因は……これほどまでに甚大な被害をもたらした天災によるものだろう。
通信の要である基地局あるいは基地局と基地局の間にある中継点の交換局、もしくは光ケーブル等に何かしらの影響が起こっていてもおかしくない状況だ。
しかも、僕と同じように誰もがいち早く大切な人達に連絡を取ろうと電話をかけていたら……回線が混み合って電話がかかりにくくなるのは当然のこと……。
けれど、今の僕は冷静さを欠いていたこともあって、どうして何度電話をかけても繋がらないのか、繋がる気配すらないのか……と、いうことを分からずにいた……。
どうしよう……。
どうしたら……いい?
何度、かけ直しても……電話が繋がらず、一向に君との連絡が取れないことへの焦りと不安がますます僕の冷静さを奪い、マイナス思考へと誘っていき……。
……もしかしたら……。
君の死。
最悪なことを思い、指が止まった……。
それはほんの一瞬のことだった……。
君の名前が表示された携帯電話の画面が、ふっ…と、消えそうになる。
そんなはず、ないっ…!!
急いで画面をタップし、僕は勢いよく頭を振り、不安にかられる気持ちやマイナス思考を排除しようと心がけた。
そんなはずがあるわけない……。
大丈夫、大丈夫だ……。
生きてる。
君は生きてる。
絶対に……。
君の無事を切に祈りつつ、電話をかけ直しながら……
僕は今、何をすべきなのか、何ができるのだろか……と、必死に考えたーー……。