その後。

僕は君と君の母親と3人でリビングに置いてあるソファーに座って、お互いの近状報告をしたり、これからのことについて聞かれたりもした。
メールや電話、手紙でちょこちょこ連絡しあっていたから目新しいことはたくさんなかったけれど、こうして君と面と向かって話をするのはいつぶりだろう……。
間近で君の表情や声を聞きながら言葉を交わすことがとても新鮮で嬉しかった。
君をさらに愛おしく感じていた。
楽しい時間は瞬く間に過ぎてゆく……。
僕はリビングの壁に飾られていたシンプルな丸い壁掛けを目にして『あっ!』と、声を上げた……。
僕の声に君の表情が曇った……。
突然、僕が声を上げたこともあるのだろうけど……それは同時に別れの時間(とき)を示してもいたから……。
ーー引っ越し当日。君の家に行くけど、引っ越しも済ませなきゃならなくて……悪いけど、長くは一緒にいられないと思う……ーー
そう、事前に伝えていたこともあって、君はすぐさまピンと来たのだろう……。
チラッと君の様子を窺い見ると……とても哀しそうな空気を纏い、今にも泣きそうな表情を浮かべていた……。
きゅっ……と、胸に切ない痛みが走った……。
僕だって、このまま君の傍に……ずっと一緒にいたい……。
けれど、僕がやるべきことをきちんとしなきゃならない……。
そういう約束を交わして、両親から許しを得てここへ来たのだ。
引っ越し早々、両親と交わした約束を破るわけにはいかない……。
君に『引っ越しの片付けがあるから……』と改めて伝えて、僕は名残惜しさを感じつつ、君の家を後にしたーー……。