その後。

僕は君の父親と一緒に駐車場へと向かった。
車の中で母親と一緒に父親と僕の話し合いが終わるのを待っていた君に声をかけると君はすぐさま車から降りてきてて、僕に抱きついた。
「えっ、あ……」
君の両親の前と、いうこともあり、僕は気まずさを感じた……。
チラッ……と、横目で両親の様子を窺うと……母親は口元に手を当てて『まぁ……』と、声を発した後、目を細めて微笑んでいた。
一方、父親の方は何ともいえない複雑な表情(かお)をして僕達のことを見ていた……。
僕の胸に顔を埋めてぎゅっ……と、力いっぱい僕のことを抱きしめる君を傷つけることなく、僕は優しく丁寧に『ちょっと、話がしたいから離れてほしいこと』を伝えてからほんの数分後……よくやく君が僕と距離を取ってくれた。
その後、両親は君と僕が2人だけで話せるように……と、車から少し離れたところで待っていてくれることとなった。
僕は真っ直ぐに君を見つめて、君の父親と話したことや前日、自分の両親と話をして約束を交わしたこと等を包み隠さず、全てを伝えた。
「ーーと、いうことなんだ」
君は無言のまま、小さく頷いた……。
その顔はとても淋しそうで今にも泣きだしてしまいそうだった……。
君の姿を見て、僕の胸はぎゅっ……と、切ない痛みが締めつけた……。
僕はいてもたってもいられなくなって……咄嗟に手をのばし、君を強く抱きしめた……。
君の両親が近くにいて、場所によっては僕達のやり取りは見られてあるかもしれない……と、知りながらも君を抱きしめずにはいられなかったんだ……。
「どんなに時間がかかろうとも……逢いに行くから……」
「……っ……」
「必ず……逢いに行く。そして……ずっと、君の傍にいるから……僕を信じて待っていてほしい……」
君を抱きしめながら僕は優しく言葉を紡ぎ、想いを伝えた……。
君は言葉なく、ただ僕の胸に顔を埋めて、ぎゅっ……と僕のシャツを掴んでいた……。
無言の時が流れた……。
ずっと、叶うことならこのまま……君を抱きしめて君の体温(ぬくもり)を……君という名の存在を感じていたかった……。
けれど、そうできないことも頭の片隅では分かっていて……名残惜しさを感じながら僕はもう一度、ぎゅっ……と君を力強く抱きしめた後……ゆっくりと腕を離し、君から距離を取った……。
君はとても哀しそうな顔をし、うっすらと瞳には涙が滲んでいた……。
泣いてしまわないように……必死に堪えているのが分かった……。
「……ねぇ……」
今にも消え入りそうな声で君は静かに呟いた。
「……約束……して……」
「……約束?」
コクッと、君は頷いた。
「必ず、来てね」
すーーっと、差し出された細く長い小指(ゆびさき)……。
その指先はカタカタ……と、小刻みに震えていた……。
僕は君の小指に自分の小指を絡ませて、君を見つめると……
「約束。必ず、どんなことがあっても君に逢いに行く。そして……ずっと君の傍にいるから……」
と、言い、2人で一緒に『指切りげんまん』をした。
そして……
『信じて、待ってるから……』と、僕に一言告げて、君は両親と共に引っ越し先に向かったんだーー……。