束の間の沈黙。
過ぎてゆく一秒、一秒がとても長く感じた……。
君の父親はゆっくりと一つ、息を吐いてから……口を開いた……。
「……敵わないね……」
「……?」
「君……には、本当に……敵わないよ……」
君の父親は少し困った表情で僕を見つめた……。
「……けれど……はやり、君を連れて行くことは出来ない」
「どうしてですかっ⁉」
「今、一度……冷静になって考えてごらん。二十歳の集いを迎えたとはいえ……君はまだ、学生で親御さんのお世話になりながら生活をしているね」
全くその通りで僕は返す言葉がなく、黙るしかなかった……。
「君の親でもない私が出しゃばっていいわけがない……と、重々承知した上で言わせてほしい……。まだ親御さんの管理下にある君が一人前に自分の想いを貫き、慣れ親しんだ街ではない街に行く……と、なれば……それ相応の準備をしなければならない……と、私は思うのだよ。
まずはきちんと親御さんに話をして、了承を得ないと……どんなに君にお願いされたとしても……君の両親にとってかけがえのない子どもである君を私達が勝手に連れてはいけないよ」
「了承は得てます」
君の父親は目を見開き、驚いた……。
「……そ、れは……本当……かね?」
「はい。彼女が退院することと引っ越しすることを教えてくれた日……すぐに両親に話をして、了承を得ました」
「……」
「本当のことです。なので、僕を一緒に連れて行って下さい。お願いします」
「……本当に……君の真っ直ぐな想いといい、君の行動力といい……驚かされてばかりだね……」
君の父親は上着の内ポケットに右手を入れ、何かを取り出した。
「……これを……」
すーっと、僕の前に差し出されたのは……四つ折りにされた小さな白い紙だった……。
「……こ、れ……は……?」
「住所だ」
「えっ……」
「引越し先の住所が記されている」
思いもよらぬ展開に僕は嬉しいという気持ちよりも驚きの気持ちの方が勝っていた……。
君の引越し先を知りたかったけれど……そう簡単には教えてくれないだろうな……と、思っていたから……。
「君のこれからの人生を考えたら、教えるべきではない……と、妻と話し合って、決めていたのだが、ね……君のことだから、どうにか知ろうと行動を起こすだろう……と、頭の片隅でそう、思ってもいてね……」
「……」
「その通り、だったね……」
やはり、全てお見通し……だった……と、いうわけか……。
それまでの僕の言動を考えれば……容易に想像がついてもおかしくはないのだけれど……。
そう、考えると……ちょっと自分の言動は他の人よりも行き過ぎているような気がして……恥ずかしくなった……。
「……念の為に、と……準備しておいたものだよ」
引越し先の住所が書かれた紙を君の父親がさらに僕の方へと差し出す。
僕は少し躊躇った後……恐る恐る手をのばして、その紙を受け取った……。
「ありがとうございます」
軽く会釈をして、お礼を伝えるとニコッ……と、君の父親が優しく僕に微笑んでくれた。
「……もう少しだけ……いいかね?」
僕に優しく微笑んでくれた後で……君の父親は少し歯切れの悪い物言いで尋ねた。
「はい……」
……なんだろう……。
僕はその口調が少し気になってしまった……。
「そんなに身構えないでほしいんだがね……」
君の父親の物言いを気にするあまり……自然と身構えていたらしい……。
僕は君の父親に指摘されて、ハッ……と、なる……。
「……すいません……」
「まぁ……いろいろ言ってきたから……そう、身構えられても仕方がないことだがね。出しゃばってしまったついでに……と、いうのもなんだが……もう一つだけ、言わせてほしい……。君が親御さんの了承を得たと言っても、まだこの街でやらなければならないことがあるはずだね……」
「はい」
やんわりと言う君の父親の言葉に僕は返事をすると共に頷いた。
僕がこの街でやらなければならないことだけを言えば……引っ越しの準備や住まい探し……だけではない。
同時に両親から出された条件も満たさなければならない。
今回、両親から出された条件は二つ。
一つ目は……後悔のない人生を送ること。
二つ目は……きちんと大学に通い、卒業して就職すること。
この二つを言い渡されていた……。
君の引っ越し先にもよるけれど……場所によっては距離的に……今、僕が通っている大学に通い続けることはかなり難しくなるかもしれない……。
そうなれば……両親に金銭面的負担をかけてしまうけれど……今の大学を中退し、君の引っ越し先で通える大学を探して、もう一度、大学受験をし直すと共に合格して大学を卒業し、就職しなければ……僕は両親からの条件を満たすことが出来ない……。
条件を満たすことが出来なければ……ずっと、君の傍にいることも……まして、君の元へ行くことすら叶わない……。
そんなことにならないように……僕は精一杯頑張るだけだ。
「……君なら……分かっていると思ったよ。君がやらなければならないということをきちんとしてから……来てほしい……。例え、いくら時間がかかろうとも……必ず、娘の元へ……逢いに来てほしい……」
「……っ……」
「いいね、約束……だ」
「ーーはいっ……」
僕は君の父親を真っすぐに見つめ、力強く頷いたーー……。
過ぎてゆく一秒、一秒がとても長く感じた……。
君の父親はゆっくりと一つ、息を吐いてから……口を開いた……。
「……敵わないね……」
「……?」
「君……には、本当に……敵わないよ……」
君の父親は少し困った表情で僕を見つめた……。
「……けれど……はやり、君を連れて行くことは出来ない」
「どうしてですかっ⁉」
「今、一度……冷静になって考えてごらん。二十歳の集いを迎えたとはいえ……君はまだ、学生で親御さんのお世話になりながら生活をしているね」
全くその通りで僕は返す言葉がなく、黙るしかなかった……。
「君の親でもない私が出しゃばっていいわけがない……と、重々承知した上で言わせてほしい……。まだ親御さんの管理下にある君が一人前に自分の想いを貫き、慣れ親しんだ街ではない街に行く……と、なれば……それ相応の準備をしなければならない……と、私は思うのだよ。
まずはきちんと親御さんに話をして、了承を得ないと……どんなに君にお願いされたとしても……君の両親にとってかけがえのない子どもである君を私達が勝手に連れてはいけないよ」
「了承は得てます」
君の父親は目を見開き、驚いた……。
「……そ、れは……本当……かね?」
「はい。彼女が退院することと引っ越しすることを教えてくれた日……すぐに両親に話をして、了承を得ました」
「……」
「本当のことです。なので、僕を一緒に連れて行って下さい。お願いします」
「……本当に……君の真っ直ぐな想いといい、君の行動力といい……驚かされてばかりだね……」
君の父親は上着の内ポケットに右手を入れ、何かを取り出した。
「……これを……」
すーっと、僕の前に差し出されたのは……四つ折りにされた小さな白い紙だった……。
「……こ、れ……は……?」
「住所だ」
「えっ……」
「引越し先の住所が記されている」
思いもよらぬ展開に僕は嬉しいという気持ちよりも驚きの気持ちの方が勝っていた……。
君の引越し先を知りたかったけれど……そう簡単には教えてくれないだろうな……と、思っていたから……。
「君のこれからの人生を考えたら、教えるべきではない……と、妻と話し合って、決めていたのだが、ね……君のことだから、どうにか知ろうと行動を起こすだろう……と、頭の片隅でそう、思ってもいてね……」
「……」
「その通り、だったね……」
やはり、全てお見通し……だった……と、いうわけか……。
それまでの僕の言動を考えれば……容易に想像がついてもおかしくはないのだけれど……。
そう、考えると……ちょっと自分の言動は他の人よりも行き過ぎているような気がして……恥ずかしくなった……。
「……念の為に、と……準備しておいたものだよ」
引越し先の住所が書かれた紙を君の父親がさらに僕の方へと差し出す。
僕は少し躊躇った後……恐る恐る手をのばして、その紙を受け取った……。
「ありがとうございます」
軽く会釈をして、お礼を伝えるとニコッ……と、君の父親が優しく僕に微笑んでくれた。
「……もう少しだけ……いいかね?」
僕に優しく微笑んでくれた後で……君の父親は少し歯切れの悪い物言いで尋ねた。
「はい……」
……なんだろう……。
僕はその口調が少し気になってしまった……。
「そんなに身構えないでほしいんだがね……」
君の父親の物言いを気にするあまり……自然と身構えていたらしい……。
僕は君の父親に指摘されて、ハッ……と、なる……。
「……すいません……」
「まぁ……いろいろ言ってきたから……そう、身構えられても仕方がないことだがね。出しゃばってしまったついでに……と、いうのもなんだが……もう一つだけ、言わせてほしい……。君が親御さんの了承を得たと言っても、まだこの街でやらなければならないことがあるはずだね……」
「はい」
やんわりと言う君の父親の言葉に僕は返事をすると共に頷いた。
僕がこの街でやらなければならないことだけを言えば……引っ越しの準備や住まい探し……だけではない。
同時に両親から出された条件も満たさなければならない。
今回、両親から出された条件は二つ。
一つ目は……後悔のない人生を送ること。
二つ目は……きちんと大学に通い、卒業して就職すること。
この二つを言い渡されていた……。
君の引っ越し先にもよるけれど……場所によっては距離的に……今、僕が通っている大学に通い続けることはかなり難しくなるかもしれない……。
そうなれば……両親に金銭面的負担をかけてしまうけれど……今の大学を中退し、君の引っ越し先で通える大学を探して、もう一度、大学受験をし直すと共に合格して大学を卒業し、就職しなければ……僕は両親からの条件を満たすことが出来ない……。
条件を満たすことが出来なければ……ずっと、君の傍にいることも……まして、君の元へ行くことすら叶わない……。
そんなことにならないように……僕は精一杯頑張るだけだ。
「……君なら……分かっていると思ったよ。君がやらなければならないということをきちんとしてから……来てほしい……。例え、いくら時間がかかろうとも……必ず、娘の元へ……逢いに来てほしい……」
「……っ……」
「いいね、約束……だ」
「ーーはいっ……」
僕は君の父親を真っすぐに見つめ、力強く頷いたーー……。