そんな僕に対して君の両親は時に……
『帰ってくれっ‼』
と、病院の外来患者用出入口付近で君のお見舞いに訪れる僕のことを待ちぶせしていて僕の姿を見るなり、足早に近づいて冷ややかに一言告げることもあった……。
そんな時は病院の近くにあるコンビニやファミリーレストランで時間を潰しては再び、君の元へと足を運んだりもした。
君の両親と僕がそんな関係であることを僕はできる限り、君に知られたくなかった……。
震災がおきた日(あのひ)……心に負った深い傷が癒えぬまま……僕と君の両親の関係が良好ではない……と、いうことに対しても君が心を痛めるようなことになっては……君の状態が今よりももっと悪くなるのではないか……と、僕は恐れていた……。
その想いは君の両親も同じようで……君がいる時はあからさまな態度は取らずに何かと理由をつけてそそくさと病室を出ていき、しばらくしてから病室に戻ってくる……と、いうのがお決まりのパターンだった。
君の両親が病室なら出ていった後……僕ははやる気持ちを抑えながら……出来るだけ君の傍に近寄り、言葉をまくしたてることなく、あえてゆっくりと言葉を紡いでゆく……。
何故なら以前は面会時間終了ギリギリまで君の傍で過ごすことが出来ていたのだが、君の両親の想いを知ってからというもの面会時間が始まってすぐに病室を訪れたとしても僕が君と二人っきりで過ごせるのはほんの数分間……。
君の両親が病室に戻ってくるまでの僅かな時間だけになってしまった……。
君の両親が病室に戻ってきても気にすることなく、君の傍にいればいいのだが君の両親がそれを許してくれることはなかった……。
病室に戻ってくるなり、君の両親の冷ややかな視線が僕を突き刺さしては無言の圧を与えてくるのだ。
その度に僕は徐々にその圧に耐えきれなくなり……君の病室を後にせざるを得ない状況に追い込まれるのだった……。
そういう事情があり、一分一秒たりとも無駄にしたくない……‼と、いう気持ちが日を追うごとに強くなり、態度にも溢れそうになるのをどうにか押止ていた。
「こんにちは」
僕は挨拶をしながら君の目線の高さに合わせるように少し膝を曲げて、君の顔を覗き込む。
初めて君が入院している病室を訪れてから数週間も過ぎるとぎちぎちに詰められていたベッド数は減り、一人、一人がゆったりと過ごせるスペースが確保されるようになった。
君は窓際に置かれたベッドのリクライニング機能を使い、頭側をやや起こした状態で身体(からだ)を預け、胸の位置位まで掛け布団をかけてぼんやりと外を眺めていた。
「何を見てるの? 鳥……でも、いたのかな……?」
「……」
君からの返答はない……。
それは今日に限ったことではなかった……。
震災が起きた日(あのひ)から一週間後に君と再会してから、ずっと……こんな調子だ。
こんな言い方はすごく失礼だと思うけど……君は生きているのに…まるで人間の形をした感情を持たない人形のように…ただ、ベッドの上にいる(そこにいる)だけの存在だ……と、感じている一方でまた、いつかソプラノの声で柔らかな微笑みを浮かべながら君が楽しそうに話をしてくれる日が戻ってくることを祈りながら君の元へと通い続けたーー……。