震災が起きた日(あのひ)
僕の家では食器棚や棚が揺れて、物が少しだけ床に落ちて散乱した。
その時、家の中にいた母さんと妹は幸いなことに怪我をすることはなかった。
壁には今もその時に出来た亀裂が数ヵ所生々しく残っていたけれど、生活が出来ない状態ではなかった。
震源地から離れていたため……その程度で済み、震災後も電気や水道が比較的、早く復旧し、以前と変わらぬ生活を送ることが出来たそうだ。
父さんは仕事場で震災に遭い、割れた窓ガラスの破片で腕に怪我を負ったけれど運良く軽傷で済んだ。
ただ、震災の影響を受けて交通機関を使うことは出来ず……歩くしかなかった……。
途中、停電のために街灯が灯っていない道を歩かなくは行けなくて、僅かな携帯電話の明かりを頼りに足元に気をつけながら歩いた。
いつ携帯電話のバッテリーがなくなってもおかしくはなかった……。
日付が変わり、朝日が昇り始めた頃……父さんは自宅へと辿り着いた、そうだ。
この日、僕は久しぶりに湯気の立ち上るお風呂に入り、あったかい母親の手料理を食べ、ふかふかのベッドに身を横たえた。
これまでお風呂に入るのもご飯を食べ、ベットで眠れることも当たり前だと思い、過ごしていて特別な思いや感謝することもなかったけれど……震災後、当たり前だと思っていた生活が奪われ、ようやくその当たり前がいかに尊く、有り難いことなのか……つくづく思い知らされた。
また、それに今まで気がつかず、感謝の気持ちをおろそかにしていたことを恥じた……。
安らぎのある空間(いえ)、美味しい食事、かけがえのない家族や大切な人達に想いを馳せ、僕は眠りへとついたーー……。