震災が起きた日(あのひ)から、1週間ぶりの我が家。
どんな顔をして家族に会えばいいのか分からなくて……玄関先で躊躇してしまった……。
我が家なのに『帰りにくい……』と、感じたのは初めてのことだった……。
あぁ……どうしよう……。
こんな思いをするなんて……思ってもみなかった……。
入りにくいな……。
一層、このまま……。
家に帰らずにいよう。
そうすれば……と、楽な方へと気持ちが揺れた瞬間……。
ーーお前、何やってんだっ!!ーー
震災から6日目。
ようやく繋がった電話口で、開口一番に父さんが発した言葉が僕の脳裏に蘇った……。
ーーお前の気持ちは分かった。声も元気そうだし……お前がそれで後悔しないというなら……思うようにしろ。但し……約束しなさいーー
次々と断片的なやり取りがまるで映画のワンシーンのように鮮明な映像として脳裏に流れていった……。
叱咤する父さんの声はやがて、いつもの穏やかな口調へと変わっていった……。
ーーあぁ……。大切な(ひと)と逢うことが出来たら……一度、家に帰ってこい。これだけは絶対……だ。いいな?ーー
あの時……親としては電話口で僕の無事が確認出来たとしても……本当は今すぐにでも家に帰ってきて、元気な姿を見たかったはずだ……。
それなのに……僕の我儘を……思いを受け入れて優先してくれた……。
……帰ろう。
帰らないといけない……。
約束(・・)したじゃないか……。
約束を守らないといけない。
自宅に入って、家族に会ったら……何を言われても受け止めよう。
心配をかけた上……散々自分勝手に好きにさせてもらったんだ。
ーーよしっ!
僕は腹をくくり、ゆっくりと息を吸って……
「ーーただいま」
玄関のドアノブを掴んだ手に力を込めて、扉を開けたーー……。