次の日。

僕は夜が明けきる前に避難所を後にした。
行き先は昨日の夜……避難所で借りた薄い毛布に身を包み込み、考えながら眠りについた。
目覚めると身体(からだ)の節々が痛かった……。
昨日、長時間歩いたための筋肉痛と板張りの床に身体(からだ)を小さく丸め、壁に寄りかかるように座ったままの体制で寝たことが原因だと思う……。
身体(からだ)の痛みなんかを気にしてなんかいられない……。
一刻も早く、僕は君の無事を知りたい。
逢いたい……。
その思いだけが僕を突き動かしていた。
昨日は君の自宅兼お店とその周辺を歩き回った。
その際、臨時に設けられた避難所へも足を運んで念の為に君がいないか、君のことを知っている人がいないか聞き回ってもみたが、何一つ有力な情報を得ることは出来なかった……。
ーー出かけてくるーー
君はそれだけ両親に伝えて家を出た。
震災が起きた日(きのう)は休日。
1人で出かけた……と、いう可能性も勿論あるけど……誰か(・・)一緒(・・)にいた……と、いう可能性もなきにしもあらず……。
もし、君が誰か(・・)と一緒にいたと考えるのならば、可能性として最も高い人物は……君の愛する人(あいつ)だ。
休日に君と君の愛する人(ふたり)で出かけていた。
それは十分にありえる。
もしかしたら……恋人が遊びに行く施設(ばしょ)に目星をつけてその周辺で聞き回れば……運良く君を見た人がいるかもしれない……と考えた。
僕は君と君の愛する人(あいつ)と3人で行ったことのあるカラオケ店や映画館、ショッピングモールが立ち並ぶ場所に向かって歩き出した。
絶対に君がそこにいる根拠はどこにもない……。
これは1つの微かな可能性にしか過ぎないのに……。
僕はその微かな可能性を信じたかったんだ……。
この日も目的地に向かう途中で、目にとまった避難所には必ず立ち寄った。
それは『もしかしたら……君がいるかもしれない……』と、いう思いと僅かでもいいから食料を手に入れるためだった。
震災によってライフラインがうまく機能せず、当たり前のようにお金を払えば簡単に手にすることができていた食べ物や飲み物がコンビニやスーパーに行っても商品が全くなく、手に入れることが困難になっていた……。
君の安否確認が最優先だとしても正直な話生きている以上、お腹は減るわけで……何も食べないわけにはいかない……。
避難所周辺に住んでいない僕が我が物顔で食べ物をもらうのはなんとも厚かましい……と、思いながらも食べ物が容易に手に入れられない今、躊躇ってなどいられない……。
僕は各市や自治会が災害に備えて準備していた救援物資を無償で受け渡ししている列へと、何食わぬ顔をしてそっ……と、並んで自分の番が来るとおずおずと手を差し出し、食べ物を受け取った……。
どこの避難所でも食料には数に限りがあるため、食べ物も飲み物も原則1人1個ずつ。
もちろん、僕は君を探して何箇所も避難所へと立ち寄ってはいたけれど、食べ物をもらうのは毎回ではなく、必要最低限の量しかもらわなかった……。
それはこの場所の住民ではない僕がもらったことによって、もらえない人が出ることを恐れてのこと。
もしそうなってしまったら……と、いう申し訳無さからだった。
こうして、偶然立ち寄った避難所で食料をもらえることは本当に有り難いことで僕は大切に頂いたーー……。