長時間歩き続けている足は鉛のように重かったが僕は構うことなく歩き続けた……。
あっ……!
辺りがどっぷりと夜の闇へ覆われた頃……震災の影響で本来灯るべき街灯が灯っていない所が多く、灯りのまばらな歩道で僕は地面に散らばった瓦礫に足を取られた……。
やばっ……。
こける!!
そう、思って咄嗟に手つき、派手に転ぶことは免れたが……ちょうど手をついたところにガラスの破片があったようで中指から小指にかけて表皮を切り、そこからじわり……と、血が滲んでいた……。
急いでハンカチを取り出して掌に巻きつける。
応急処置とはいえ、一時的でも衛生的には適していない処置だった……。
ポケットから取り出したハンカチはこれまで幾度となく流れ出す汗をぬぐったもので、清潔なハンカチとは言い難い……。
傷口を洗うことなく、あてがわれたハンカチに付着した細菌が傷口から入ってしまう恐れは大いにあったが、自分のことよりも君の安否確認が僕にとって何よりも優先的なことだったから、応急処置を終えると僕はすぐさま歩き出した。
その際、また躓いてしまわないよう、街灯の灯りが頼りにならないのであれば、携帯電話のライト機能を使おう……と、したが回りの状況を見てやめた。
震災の影響でライフラインの供給もままならない今…手元にある携帯電話が君と僕を繋ぐ唯一の連絡手段だった。
今は通信障害が起きて何度電話をかけても全くもって連絡が取れない状況だが、復旧さえすれば……簡単に君と連絡が取れるだけでなく居場所だって分かる。
もしかしたら君から連絡が入るかもしれない……。
そもそも君が僕に連絡をくれるのか、すら分からないけれど……それでもすぐに連絡がつくようにしておきたかった……。
僕は1つ息をつき、くるっと(きび)を返した。
手元に灯りがなく、足元も十分照らせない状況での歩行はまた、瓦礫に足を取られてしまうのは目に見えていた……。
ここで無理をして、万が一にも今よりももっと大きな怪我をしたら……満足な手当ても受けれないどころか……運が悪ければ君を探すことも出来なくなる……。
そうなってはたまらない……と、僕は泣く泣くこの日、君を探すことを断念し、近くの避難所に身を寄せて夜が明けるのを待った……。
結局……その日のうちに君と連絡を取ることは出来なかったーー……。