用意された紅茶は、クトウ国名産のオレンジティー。
 お菓子もオレンジが練り込まれたパウンドケーキだ。
「すまない。オレンジばかりで」
「以前いただいたオレンジティーがとても美味しくて、また飲みたいと思っておりました」
 パウンドケーキもおいしそうだとシェリルが微笑む。
「うちの大臣がそちらの王宮へ輸入についての会談に行っているはずなんだが……」
「はい。昨日ですね」
 スムーズに終わるといいですねと他人事のように答えるシェリルに、ディートリヒは一瞬驚いた表情を見せたが、そのあとこの話題を持ち出されることはなかった。
 
「フーグには毒があるのだと別の商人から聞いた。本当にありがとう」
 もしあの魚をクトウ国の王太子であるディートリヒが食べていたらとんでもないことに!
 よかった、あのとき話しかけて!

 甘くシロップ漬けされたオレンジがおいしいパウンドケーキはバターもふんだんに使われており、国の豊かさがうかがえる。
 自国よりも倍以上も大きく文化も進んでいるクトウ国は、ティーカップでさえ軽くておしゃれだとシェリルは感心した。

「失礼します。ディートリヒ様、急ぎの連絡が届いております」
 侍従が手渡した小さな紙を確認したディートリヒは、苦笑しながらその紙をシェリルに。
「……私も見てよろしいのですか?」
 小さく折り目がついた紙はおそらく鳥の足につけられたもの。
 メッセージは最低限。
 
『希望通り。R承認』
 
 ディートリヒと私は国が違うのに、急ぎの連絡を私に見せてくれた。
 私たちの共通点は輸入品の会談くらいしかない。
 ここに書かれたRはライナス殿下だ。
 
「……クトウ国が希望された交易品は何でしょうか?」
「さすがアークライト公爵令嬢とでもいうべきか?」
「え?」
「うちの大臣たちがとても褒めていた。こんな女性がうちの国にもいたらと」
 ディートリヒは侍従に指示し、今回の会談で提示したリストをシェリルに見せる。
 あまりにもクトウ国に有利すぎる条件に、シェリルは顔面蒼白になった。