「俺はディー。君は?」
「シェリルです」
 自己紹介はたったそれだけ。
 ディーはシェリルの手を握ると、歩き始めた。
 ディーのリスクは今日も『18』。
 ついて行っても騙されることはなさそうだ。

「女性一人で旅行なんて危なくないか?」
「危ない方には行かないので大丈夫です」
 シェリルの珍回答にディーはそうかと笑う。
 馬車が横を通るときには、さりげなく馬車から遠い方にシェリルを誘導したり、人とぶつからないように守ってくれたり、ただ歩いているだけなのにディーの気遣いはすごかった。
「船は平気?」
「乗ったことがなくて」
「大きいから船酔いはしないと思うけれど」
 そう言われながら案内されたのは、先ほど見たリスク『13』の豪華すぎる船だ。
「……こちらではなく?」
 シェリルがリスク『48』の方のシンプルな船を指差すと、ディーはこっちとリスク『13』の船を指差しながら桟橋の前へ。
「おかえりなさいませ、ディートリヒ殿下」
 桟橋の前の騎士の挨拶に、ディートリヒはしまったという顔をする。
 ……殿下?
 桟橋の騎士の腕についた紋章はクトウ国。
 そしてクトウ国の王太子の名前はたしか――。
「クトウ国のディートリヒ王太子殿下……?」
「……あれ? なんでクトウって」
 シェリルは急いでディートリヒから手を離すと、昨日街で買った青いワンピースのスカートを持ちながら今できる精いっぱいの礼をした。

「ご無礼をお許しください。シェリル・アークライトと申します」
「アークライトってライナス王子の婚約者の……?」
「いえ、婚約破棄されておりますので」
「は? 婚約破棄?」
 桟橋の前でするような話ではないと気づいたディートリヒはシェリルの手を引き、船の中へ。
 外だけではなく、ここが船の中だと忘れてしまいそうなくらい豪華な船にシェリルは圧倒された。