「次はどこへ行こうかしら」
 宿を出発したシェリルは船と馬車のリスクを確認した。
 船が二隻『48』と『13』、馬車『45』、全然関係ない方向が『18』だ。
 でもどう見たってあの豪華な『13』の船は一般人が乗れるようなものではない。
 そんな船にまで数字はつけないで。

「まさかの徒歩?」
 シェリルは肩をすくめると、リスクの数字に従い船でも馬車でもない方向に歩き出した。
 こちらには何もないと思っていたが、綺麗な噴水と花が咲き乱れる広場が現れる。
「ここを見た方がいいよって事だったのかしら?」
 シェリルは広場のベンチに腰を下ろした。
 時々風で運ばれてくる噴水の水しぶきが気持ちいい。
 こんなにゆっくりできるのは婚約破棄されたおかげだ。
 
 そういえば、昨日クトウ国と会談の予定だったがどうなっただろうか?
 小麦をできるだけ多く仕入れ、他のものはできるだけ控えたいけれど、なかなかクトウ国は納得しないだろう。
 我が国で採れすぎてしまうトマトをうまく加工して、小麦とトレードできると一番効率が良いのだけれど……って、もうそんなことを考えなくてもいいんだった。
 シェリルは大きく伸びをする。
 綺麗な青空と光る水しぶきが眩しくて、シェリルは微笑みながら目を細めた。

「……君、もしかして昨日魚を教えてくれた……?」
「えっ?」
 気を抜きすぎて人が近づいたことに気が付かなかったシェリルは慌てて伸ばしていた腕を戻し、声の主を確認する。
「あ、昨日の。アンコーウ? のお味はどうでしたか?」
「なかなか良かったよ」
 さすがリスク『22』の魚。
 そっか、あの魚おいしいんだ。覚えておこう。

「あの時、止めてくれなかったら大変なことになるところだった」
 あ! フーグには毒があるから……?
「お礼をしたいんだ」
「お礼をいただくほどのことは」
 シェリルは全力で手を横に振ったが、青年はニッコリ微笑みながらシェリルの手を止める。
「このあと用事は?」
「特にないです」
「家はこの辺り?」
「いえ、旅行中です」
 今日の宿も、行先さえ決めていないことを話すと、青年はよかったと笑った。