多くの観光客でにぎわう活気あふれる街には、たくさんの店が所狭しと並んでいた。
 服、装飾品、小物。
 王都では見たことがないものがたくさんある。
 きっと船で異国の商品が搬入されるのだろう。

「わ! キレイ」
 カラフルな布で作られたラフな服は、ボタンもなく被るだけ。
 今着ているワンピースよりも涼しそうだ。
 シェリルは白から青、そして紺へと綺麗なグラデーションになっているワンピースを広げ、自分の胸の前に当ててみる。
 
「この青はね、この街でしか出せない青なんだよ」
 おばさんが真ん中のあたりの真っ青を指差す。
 確かに王都のドレスでこんなに鮮やかな青は見たことがないとシェリルは納得してしまった。
 長すぎるかと思ったが、下に引きずるほどでもなく、布はフワッと軽い。
 リスク『2』なんて買うしかないよね!
 
「これ貰うわ。着替える場所はあるかしら?」
 コルセットも必要ない服を着ていたなんてお父様にバレたらきっと叱られるけれど、もう王子妃ではないのだから好きにさせてもらおう。
 どうせ嫁の貰い手もないだろうし、顔色をうかがい合う貴族の暮らしに未練なんてないし、市井で生活でも構わない。
 期待はずれな娘でごめんなさい、お父様。
 シェリルは着替え、ついでに髪型も三つ編みからハーフアップに変え、薄暗い店から明るい道に出た。

「くっそぉ、あの女さえいなけりゃ、丸儲けだったのに!」
 さっき魚を売っていたおじさんがシェリルの横を通過していく。
 服も髪型も違うから私に気づいていない……?
 さすがリスク『2』の服!

「にしても毒があるフーグを売ろうなんて、お頭も大胆っすねぇ」
「魚を見たことねぇ観光客が運悪く死んだところで誰も気にしねぇっての」
 がははと笑いながら歩いていくおじさんと手下の会話にシェリルは目を見開いた。

 毒があるのにあんな高い金額で売りつけようとしていたなんて!
 知らない人だったけれど話しかけてよかった。
 あんないい人そうな青年がお金を騙し取られて死ぬなんて絶対ダメ!
 シェリルは街にはあんな商売人もいるのかと肩をすくめると、次の店に向かった。