「ねえ、サヤカ。一昨日のあの時って、タクマくん見に行ってたの?」
「ん? なに?」
次の日。
サヤカにあの日に何をしてたか確認してみることにした。
タクマくんがどうしてもきけとうるさいから。
「ほら、花瓶落ちてきた時」
「え? ああ、あれって一昨日だっけ」
「そうだよ。あの時すぐに来てくれたでしょ。ほんとにありがと」
「いやいや、えーっと、一昨日ね」
サヤカは記憶力が悪いのか、一昨日のことでも、思い出すまでにずいぶん時間がかかるみたいだ。
「あー、あの時ね。 うん! 体育館で西之谷くんのこと見てたよ!」
「やっぱりそうだったんだ」
「そうそう、それで帰ろうとしたら、花壇のところで座り込んでるカホの姿が見えたから、えええ! ってなったんだよ」
「ね、ビックリだよね。サヤカが来てくれてほんとウレシカッタ」
「よかったよね、ほんとに。ケガなくてさ」
私は、先生たちを呼んできた時のことを思い出していた。
「先生たちもビックリしてたよね。最初に先生が言ったこと覚えてる?」
「えー、なんだっけ」
サヤカは顎に手をあてて、思い出すような仕草をする。
「ほら、ガラスが割れたのか? って慌ててたじゃん」
「あ、そうだった?」
「うん、ガラスの破片が飛び散ってたからさ。私より窓ガラスが割れた心配するの? って思っちゃったけどね」
「あはは、そうだったね。あれはほんとに腹立つよね」
「そうそう、偶然だけど。花瓶に生けてあった花はさ、あの花壇の花とよく似てたんだよね」
「そうなんだ。あたし花とか全然わかんなくて」
「まあ、あれは私が花瓶に生けた花だからね」
「そっか。カホ、美化委員じゃん!」
「そうそう。それで覚えてたの」
「うんうん。それがどうかした?」
「ほら、花壇の花と似てるから、花が落ちてるのを見ても花壇の花かなって思っちゃうよね」
「……うん」
「だから、ガラスの方だけ見たら窓ガラスが割れたのかなって思っちゃうのが普通だと思う」
「カホ? 何が言いたいの?」
「いや、なにも? じゃ、用事あるから先帰るね」
サヤカに手を振ると、私は先に帰った。