『きいたよ。大丈夫だった?』


 次の日、タクマくんからラインがきた。


『なにをきいたの?』

『花瓶が落ちてきて、あたりそうになったって。 ケガは?』

『大丈夫だよ。誰から聞いた?』

『サヤカってやつ』


 おしゃべりサヤカ。

 さっきの昼休み、珍しく誘ってこないと思ったら、タクマくんのところに行ってたんだな。


 それにしても、花瓶か──。


『放課後、時間ある? そのことで話したいんだけど』

『いいけど、あんまり人に見られたくない』

『じゃあ、授業終わってから、一時間後に現場で』



 放課後。

 サヤカには用事があるとウソをついて、トイレの個室に一人残っていた。


 小一時間経ってから、現場となった花壇へと向かう。


 タクマくんの姿はない。私はラインを送った。


『まだ?』

『ごめん、どこ? 部室棟のそばの花壇にいる』

『東校舎のほう』


 その後、タクマくんが走ってやってきた。


「わりぃ、教室棟の方だったのか」

「そうだよ。どこ行ってたの」


 彼は部室棟がある西校舎の方や、校舎の裏手のほうを探していたらしい。


「こんな目立つところで、ふつうやらねえよな」

「どういう意味?」

「ん? 事故じゃないんだろ?」

「まあ、別に誰かが落としたなんて話にはなってないけどね」

「そうだけど、犯人がいるに決まってるだろ。なんもなくて落ちるようなもんじゃねえって、花瓶は」

「花瓶、か。サヤカから聞いたんだよね」

「ああ」


 私たちは現場検証の真似事のようなことをした。


「ここでしゃがんでるところに、落ちてきたのか」

「そう」

「あたってたら、やばかったな……」

「そりゃあね」

「上にはカホのクラスがあるのか」

「うん、三階」

「その時間はみんな帰ってたんだよな」

「さあ、それはわからない。先生も全員に訊いたりとかしてないだろうし」


 先生たちは今日は何も言ってこなかった。昨日の今日だっていうのに。


「まあコトを荒立てたくないだろうし、たぶん事故としてこの話は終わると思う」

「そんなことってあるかよ。犯人の心当たりはないのか?」

「ナイ。恨まれるほど、人と関わってないから。誰かがいたずらでやったんだと思う」

「……」

「心配してくれてありがと。今はもう平気だよ」

「そうか」

「その時はショックで腰が抜けてたけどね。サヤカがすぐに来てくれたから、顔見たら安心して泣いちゃったし」

「えっと、サヤカってやつとは、ずっといっしょにいたの?」

「んーん、作業は一人でしてた。サヤカは……花瓶が落ちてきてからきてくれたんだよ」

「おい、サヤカってやつはその時間までどこで何してたんだ?」

「あー、そういえばあの時間まで何してたんだろ。たぶん、部活見学とかしてたんじゃない? 最近タクマくんのことちょくちょく見に行ってたみたいだし、体育館にいなかった?」

「いや、見てないけど。昨日は、見学してるやつとかいなかったはず」

「そうなんだ」

「なあ、あいつって本当に友達なの?」

「友達じゃないよ──」

「え?」

「シンユウだよ。友達以上。だからあいつなんて言わないで」


 その時のタクマくんは、女って何考えてるかわからねー、って顔をしてるのがちょっとおもしろかった。