体育倉庫の扉が鈍い音を立てる。

 重い扉がゆっくりと開き、光が入り込んだ。


 誰かが立っている。

 先生ではない。制服を着た細身の、男子生徒だ。

 逆光で顔はハッキリと見えないが、痩せぎすのシルエットには見覚えがあった。


 あれは……。


「誰だ、てめえ!」 
「今取り込み中だ。入ってくんじゃねえ!」


 先輩たちが威嚇すると同時に、その人物は倉庫の中に飛び込んできた。

 そして、彼は目にもとまらぬ速さで先輩たちを攻撃し、なぎ倒していく。


「先輩方、弱いくせにイキらないでもらますか」


 制服をゆるく着こなして、気だるげに立っているのはやはりタクマくんだった。

 
 シュッとしたオーラをまとう彼は、細身なのに力強い出で立ちで、妙な安心感がある。

 その顔はどこかかげりのある表情だったけど、ウソくさい笑顔を見せられるよりもよっぽど惹かれた。


「ったく、心配させやがって、大丈夫か」


 タクマくんの問いかけに、親友のサヤカがぐいっと前に出て答える。


「うん……西之谷くん、助けにきてくれたんだね……信じてた」




 ああ、またか……やっぱりね。


 私はサヤカの後ろでうつむきながら、うすら笑いを浮かべた。


 両手を前に組んで胸元を強調させる姿勢。

 今までサヤカが男に対してこうするのを何度も何度も見てきた。


 正直、反吐が出る。


「お前じゃねえ」

「えっ?」


 タクマくんのうんざりした声。

 サヤカの間の抜けた声。


 倉庫内の空気が一瞬にして凍り付く。


 何が起こったのかわからず、私は思わず顔を上げる。


 その時、タクマくんと目が合った。

 クールな視線の奥に、わずかな優しい光が見えた気がした。


「俺はカホを助けに来たんだ」


 急に名前を呼ばれて、心臓が飛び跳ねる。


「タクマ……くん……?」


 私が名前を呼ぶと、タクマくんは近づいてきて……私のそばにかがんだ。


「カホ、無事でよかった」

「どう、して……」


 言葉にならないくらいの想いがこみ上げる。


 その時、サヤカが後ろで叫んだ。


「なに! どういうこと!? ねえ、西之谷くん! お前じゃねえって何!? 私だってこいつらに監禁されてたんだよ?」


 サヤカは目を見開いて、唇をわなわなと震わせている。

 ゆっくりと、振り返るタクマくん。


「お前は……そっち側だろうが!」

「なに! なにが!?」


 サヤカは必死に声をふりしぼる。


「どうしてそんな目で私を見るの!?」

「もういいって。わかってんだよ全部」


 そんな二人のやりとりをじっと眺めていた私の方に、タクマくんは優しいまなざしを向けてくる。


「カホ、お前も気づいてるんだろ」

「……」

「全部、この女が仕組んだことだって」


 私はこくりとうなずいた。