体育倉庫の中。

 私は冷たいマットの上に転がっていた。

 隣には親友のサヤカもいた。彼女はひどく(おび)えて、体を震わせている。

 私たちは手を縛られて身動きができない状態にされていた。


 目の前の獣たちの手によって。


「へへ、俺たちを楽しませてくれよな」


 息を荒くした獣たちがにじり寄り、私たちの体に触れようとしたその時。


 体育倉庫の扉が鈍い音を立てた。

 重い扉がゆっくりと開き、光が入り込んできた。


 男が立っている。


「誰だ、てめえ!」 
「今取り込み中だ。入ってくんじゃねえ!」


 獣たちが威嚇すると同時に、その男は中に飛び込んできた。

 そして、彼は目にもとまらぬ速さで獣たちをなぎ倒していく。


 シュッとしたオーラをまとう彼は、細身なのに力強い出で立ちで、妙な安心感があった。

 男はかげりのある表情でつぶやいた。


「心配させやがって、大丈夫だったか」


 親友のサヤカがぐいっと前に出て答える。


「助けにきてくれたんだね……信じてた」


 私はサヤカの後ろでうつむいていた。


「お前じゃねえ」

「えっ?」


 倉庫内の空気が一瞬にして凍り付く。


 何が起こったのかわからず、私は思わず顔を上げる。


 その時、男と目が合った。

 クールな視線の奥に、わずかな優しい光が見えた気がした。