寒い冬は終わり、もう桜が舞う季節。


ドアを開けた瞬間に漂う春の香りは、私の期待を大きくした。



「絃、メモ持ったのー?」


「持った!行ってきます〜!」


「車に気をつけてよー!」




うっ⋯まだ肌寒いな。


春だからと言って薄着すぎたかなぁ。




買い物バックに財布⋯それと買い物リストを持って私は玄関を出た。



私の家は母子家庭でお母さんと支え合ってひっそりと暮らしている。



自分なりに親孝行も積極的にしているつもり。




そして家のすぐ近くにスーパーがあるから、すぐに買い物に行けるのは便利なの!




長い髪の毛をサラサラとなびかせながら少し早足でスーパーへと向かった。





⋯─────はずだった。









「どうしてくれんの?この靴高いんだよなぁ」





「ほっ、本当に申し訳ないです⋯」





「ま、お嬢ちゃんが俺に着いてきてくれるなら許すよ〜」





「着いていくことはできません⋯っ!」






「ふーん、じゃあ弁償して。6万でいいよ〜」






「そ、それは⋯⋯」







なぜこんな状況かと言うと。




スーパーに向かって歩いている途中、この謎の男性に足を引っ掛けられ、そのまま靴を踏んでしまった⋯。




今までに感じたことの無いほどの恐怖を今、味わっている。





「金払えねぇなら大人しく着いてこいよ!!」





その瞬間、男性は怒鳴り声と一緒に拳を高く挙げた。




殴られる⋯っ!


お母さん、ごめんなさい。



私、全然親孝行なんてできてなかったみたい。




お母さんの顔を思い出して泣き出しそうになりながらも、痛みに耐えるように目を瞑った。
















⋯あれ?


痛みがない⋯?











恐る恐る目を開けると、そこには同い年くらいの男の子が立っていた。



茶髪で襟足まで伸びている艶々の髪の毛。

パッチリとした翡翠色の大きな瞳。

肌は透き通るように真っ白で思わず見惚れてしまった。






「なにしてんの、おっさん。」