あの人となら、話も合うし、優しいし、理想の人だ。

こうやって私が私じゃなくなっていくのが嫌でたまらない。

こんなことで気持ちをみ出されるほど、自分は情けないやつだったってことに気がつきたくない。

「じゃあ、さよなら。」

無理やり手を振り払い、歩き出そうとした。


「…!!」

な、に。

目の前にいる、吉崎流星の顔。

いる、というよりある、というくらい近い。

肩を掴まれ、そして、唇に感じる、柔らかい感触。

私は思わず胸を思いっきり押した。

吉崎流星の顔はいつもと違う。

ヘラヘラした笑顔でも、情けない顔でもない。

見たことがない顔をしてる。

私、今こいつと…

キスしたの。

あり得ない。

「そうやって、今まで何人の女の子、落としてきたの?」

「えっ?」

「最低。二度と話しかけないで。」

私は絶対に落ちない。

バカじゃないの。

歩きながらスーツの袖で思い切っきり唇をこすったら、少し切れて痛かった。