耳元で甘い声を出さないで。

背中に感じる熱。

あれ?

なんで俺、ちょっと緊張してんの!

確かに酔った女の子をおんぶするのは初めてだけど、酔っ払った女の子を介抱したことは何度もあったじゃん!

「環ちゃーん、これからどうする?」

返事の代わりに聞こえてきたのは静かな吐息。

というか、寝息。

うん、寝てるね。

どうすんだ。

いつもならこのままお持ち帰り…って流れが当たり前だった。

けど、この子にはそんなこと、できない。

なんか、しちゃダメな気がする。

でも、どうすっかな…

環ちゃんの家、知らないし。

とりあえず、家に連れて帰るか?

いや、何もしねえし!

何も、しないから!


「ただいまー…」

誰もいないのに、言ってしまうのは俺の癖。

一人暮らしを初めてからもうすぐ二年。

専門を出て、今の店に勤めだしてからこのアパートに住んでる。

女の子を連れてくるのは初めてじゃない。